5話 アキバハラでお仕事 2

 私は、私と皇の間に1人が通った隙に、JKの背丈と顔立ちに変えた。


「こんにちは」


 皇の目線が少し下がった。メガネと前髪越しに、「おかしいな」という表情をしているのがわかる。

 靴を20センチ分の厚底ヒールに変えたが、もとの私は176センチ。さっきはそれにヒールを履いていたからもう少し高かったはず。普段JK姿のときは約158センチに擬態しているので、若干の差が出てしまった。

 数字にうるさい男だから気にしていそうだが、ここはとっとと撒いて逃げるのが正解だろう。


「こんにちは、キルコさん。奇遇ですね。お出かけですか?」


「いえ、友人と一緒です」


「ご友人はまだですか」


「はい。でも、もうすぐくると思います。なので、また学校で……」


「それなら、僕も一緒に待ちます」


 なぜ。


「用事があるのではないですか? 早く行ったほうが」


「いえ、僕はパソコンのメモリを足そうと思って、その買い物に来ただけなので。それより、キルコさんをここで1人にさせるのは危ないので」


「危ない?」


「周りが注目しているので」


 ちら、と周りを見ると、たしかにこちらを見ながら歩いている豚どもがいた。

 上から下まで黒色の、シアー生地のトップスとミニスカートという簡単な格好な上、神力をコントロールし、美しさを抑えているはずなのだが。

 まあ、どんなに美しさを抑えても人間たちには刺激が強いのだろう。神々しい美しさに声をかけることもできなかろうが。


「大丈夫ですよ」

 

「いえ、何かあったら僕が嫌なので。ご友人が来たら、すぐに帰りますから」


 何度いいと断っても、皇は断固として居座った。

 まずい。このままでは、動けないではないか。

 ……こうなったら、適当なことを言って撒こう。


「そういえば約束、今日じゃなくて、明日でした。うっかり間違えて来てしまいました。ということで、帰ります。さようなら」


「待ってください。それなら、僕と行きませんか」


 ……え?


「僕はこの街は来慣れているので、キルコさんが明日行く場所とは違うところで、行きたいところがあれば案内します。僕の用事はいつでもいいことですし」


 案内と言われて、そういえば、私が行きたいメイド喫茶がどこにあるか、いまひとつわからないことに気づいた。頼みの綱のカラスたちは緋王様を捜索させていてどこにもいない。

 ……案内役をさせるか。身長の話は触れられないようにうまく濁しながら……。


「では、お言葉に甘えて。『メイド喫茶みぃみぃ』というところに行きたいのですが、案内をお願いしてもいいですか」


 皇は「みぃみぃ……」と呟いて、黒いスマホにささっと何かを入力すると、「こっちです」と右を指差した。


「……あの、よかったら。

 足元、心配なので」


 手が差し伸べられていた。手がきれいできゅんとする。

 が、メガネと前髪で顔が隠れた状態では萌えはしない。

 前髪が上がり、メガネがとれている状態で、わずかな微笑みを浮かべ、手を差し伸べてくれていたら、百点満点爆発的な萌えだったのに!!


「大丈夫です、慣れていますから」


 さっぱりと丁重に断ると、皇は、「あ……」とゆっくり手を引っ込めた。

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