4話 間接キスでお仕事 5
「――や、やっぱり、ダメッ!!」
ペットボトルを奪い返し、勢いで、ひりひりする喉に流し込む。舌に、痺れが走った。しまった。毒を飲ませるつもりだったのが、すっかり飛んでしまっていた。私は神だから効かないが……。
――くっ。この顔を前にしたら、何もできなくなる……っ!
でも、拝んでいたい……。
ちら、と見ると、皇の前髪は上がったままで、はっきりと顔が見えていた。安心したような、しかし残念そうなような、複雑な美しい顔をしていた。
「そういえば、どうして僕のメガネを没収したんですか」
「顔が見たいと思ったからです」
「見たいと思ってくださるなら、見えるようにします」
「そうしてください!」
叫んで、はっとした。まずい。この美しい顔を見ているせいでこいつを殺せないのに、ずっと見えるようになってしまったら、一切手が出せなくなってしまう!!
「いえ、やっぱり……」
でも……見たい。これだけ美しい好みの顔を見られないままなのは生殺しというものだ。
――そうだ。
「こういうのはどうでしょう。私がお願いした時に、メガネを取って、前髪を上げて、顔を見せてください。授業中にノートを見せるので、その時に」
そうすれば、退屈な授業の暇つぶしもできるし、萌えのコントロールもできる。さすが私。さすがは神だ。
「授業中だと、先生に失礼では」
「黒板の方を向くタイミングですれば気付かれません」
「そうでしょうか。では、僕の方が席が前なので、僕が確認したタイミングに限りますが、大丈夫ですか」
「ええ。今日くらい確認してもらえれば十分です」
「今日は、僕の度が入ったメガネをかけて体調を悪くしていないか、心配で。すみません、何度も見てしまって。
では、それでいいのですが、僕もお願いがあります。
昨日の続きを……質問をさせていただける機会を、またつくってもらえませんか。色々考えてしまって、質問事項が30個になってしまって」
昨日27だったのに? 3つ答えたから減るはずのところが、なぜ増えた? 逆に気になる。
「たとえば、僕がキルコさんの要求に応えた数だけ、その日に質問をさせてもらう、というのはどうでしょうか。時間は、昼休み。昼食をとりながら。場所は屋上で。あ、学食を使っていればそちらでも」
なるほど、それなら毎日皇と接触する機会が確保されるし、悪くない提案だ。
「わかりました」
「では、それでお願いします」
皇は、礼儀正しくペコリと頭を下げた。
顔を上げた皇の額に、ふた束の前髪が降りてきていた。
皇は、私をまっすぐに見て、ふわりと微笑んだ。
「では、僕のこと、見ていてくださいね」
心臓がどきりと鳴る。
動かない私の顔からメガネをすっと取って、皇は、自分の耳にかけた。
メガネをかけても美しい顔の輝きは褪せることがなく、私はまた、このままずっと、見ていたいと思ってしまった――。
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