4話 間接キスでお仕事 3

 この学校の女子の体操着はなぜかブルマーであった。


 ジャパニーズ・ブルマー……。絶滅し、漫画やアニメにしか残っていないと思っていたのに、まさかこの身で着ることができる日が来るとは。感激。


 しかも、ありがたいことに、女子のいる他クラスとの合同実施のために、ジャパニーズ・JKのブルマーが間近で拝める。


 ああ、ジャパニーズ・JK……。


 長い黒髪、短くてやわらかそうな足……。私と並ぶと足の付け根の位置が皆私より10cmは低い。まるで日本人形そのもの。可愛らしいったらない。


 日本文化で好きなものトップ3をあげるとすれば、1位が緋王様、2位が日本酒、3位が日本文学と日本人女子。そのため、私は多幸感で満ち満ちていた。


「エルデさん、よろしくね」

「仲良くしてね」


 この高校の女子はみな控えめで、ザ・ジャパニーズ・女子、という感じでなお好みだった。

 少しの間、黒髪日本人女子に囲まれてきゃっきゃうふふした。日本に来てからこんなにほのぼのしたのは初めてだったかもしれない。


 授業がはじまった。女子は陸上競技だった。短距離、幅跳び、高跳びを記録する。

 はじめは短距離。

 

「ひっ……!? 50m、5秒!? 100m、10秒!?」


 幅跳び。


「4m28!?」


 高跳び。


「3m10!?」


「すごいよ、エルデさん!」

「すごいってレベルじゃないよ……! 人間離れしてるよぉ!」

「陸上部入らない? 絶対、伝説になるよぉ!」


 ジャパニーズ・女子たちに囲まれ、きゃっきゃともてはやされた私はふわふわと浮かれた気持ちだった。

 どこからかブヒブヒと低い声がした。道路を挟んだところにある第二グラウンドにいた男子たちがフェンスを掴んでこちらをみていた。私の名前を叫んでいる。


「やだ、エルデさんのこと、見てる……」

「気持ち悪い……。大丈夫? エルデさん」


 ただの豚の塊だ。問題ない。

 それより、皇の姿がないのが気になった。


「少し休憩してきます」と言ってその場から離脱する。

 女子の目も男子の目もない、第二グラウンドに渡る横断歩道に近づく。

 そこに、皇がいた。


「キルコさん」


 近づいていくと、皇が、私のほおに冷たいものをぴたりとあてた。


「あっ、すみません。当てるつもりはなかったのですが。

 これ、麦茶です。キルコさん、すごく動いていたのに、飲み物を持っていなかったので、よければ。水分補給に適した日本のお茶です。今日は昨日より気温が3度高いですし、第一グラウンドは日光が当たりやすいので、体温が上昇しやすいんです。よければタオルも冷やして使ってください。僕は使っていないので」


「球技をしていたのでは?」


「サッカーの予定だったのですが、みんな女子の方を見入ってしまって、先生が何を言っても動かないので取りやめになったんです。

 普段はこんなことはないのですが」


 自分の美しさで、皇を殺す機会を一つ減らしてしまうとは……。

 せっかくメガネを没収しているのだから、今日中に何か一つは仕掛けたいものだが……。

 

「活躍、すごかったです。桜に飛び込みたいと言っていたのは、ご自身の運動能力を加味して、怪我をしないと考えていたからだったのですね。運動能力の有無について盲点だったと気付き反省しました。

 引き続き、頑張ってください」


 ペコリときれいな礼をして、皇が背を向ける。


「――待ってください」


 慌てて、皇の腰もとをつまんだ。


「日陰に、連れて行ってください」

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