4話 間接キスでお仕事 1

 鎮まらなかった。

 

 ひおさんぽも、緋王様主演の映画も観たのに、緋王様が心に入って来なかった……。

 理由は二つ。

 一つは、日本酒がないせいだ。必ず今日の帰りに調達する。

 そして重大すぎるもう一つは、皇秀英――あいつの顔が良すぎるせいだ!!


 それに、時々繰り出す萌え言動が爆弾的で……!

 おだやかな緋王様の「乾杯」や笑顔では上書きできない……っ!

 性格やポテンシャルなどを含めた総合的なところをみれば緋王様が上――と思ったが、皇は、減点していたコミュ障感が「女慣れしていない可愛さ」に移行したことで、緋王様とは別の萌えポイントが生じ、優劣をつけようとしたら頭の中がごちゃごちゃになってしまった。

 そうこう考え寝たり起きたりを繰り返していたら、いつのまにか朝を迎えていた。

 

 リン。黒電話が鳴る。


 ハデスだ。受話器を取ってすぐ、私はまくしたてた。


 「おはようございます、昨日は情報収集をしておりました、有用な情報を得ましたし今後も情報収集しながら着実に仕事を行なってまいりますので今後は確認のお電話は結構です、確実に成果は持ち帰りますのでしばしお待ちを」


 ガシャンと切る。あいつとの縁も切れればいいのに。


 ソファに倒れる。黒い天井を眺めながら、私は一つの考えに達していた。

 

 どんなに顔が良かろうと萌えようと、私は皇を殺さねばならない。それが私の仕事。長年積み重ねてきたキャリアがこんなところで崩れれば、この悠々自適な堕落生活が終わってしまう。それは嫌だ。私は永遠に、悠々自適にだらだらと好きなことをし続ける。

 

 だから、仕事は必ず成し遂げる。

 

 だが――皇には、潔く萌えることにする!

 

 顔がいいことに気づいてしまった以上、あの男に萌えないなんて無理だ。

 私にとって萌えはオアシス。

 制御などできない。しようものならストレスによって死に至る。まあ私は神だから死なないが。

 それに、ブ男だらけでストレスフルな仕事場に身を投じているのだから、このくらいの愉しみはいいだろう。 

 仕事はきちんとするのだし。

 

 鍵を扉に差し込んで、開く。

 晴れ晴れとした空が私を吞み込んだ。

 高校の屋上に着地する。ちょうど皇が歩いてくるところだった。

 きゅん、と胸が鳴った。

 運命写真を撮る。皇の姿と共に、今日の皇の運命が浮かび上がる。

 その文字列に、隙を探す。


 昨日の会話で、皇の負けず嫌いの性質が死なない原因だとわかった。が、それを崩す手は現状では見つからない。

 ひとまず、他のことについても、できない原因を探していこう。今まで東洋の死神たちが失敗したことを再度挑戦し、隙を見つけるのだ。

 

 ――と、私の行動方針はそれでいいとして。


 なぜ皇はまたメガネと長い前髪で顔を隠して登校しているのだ!

 これじゃあ、顔が見えないではないか!!

 

 せっかく潔く萌えると決めたのだ。

 せめて、顔は見なければ――。

 

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