3話 帰り道でお仕事 8

 死ぬ。萌え死ぬ。

 皇のノートを抱きながら、私は、自室のソファに指を組んで寝そべっていた。まるで、棺桶の中の死者のごとく。

 

 いや。死ぬのは私ではない。皇の方なのだ。生き返らねば。

 私は、命の水を飲もうと、荒れ放題の床に手を伸ばした。

 ……しまった。命の水――日本酒がない。調達するのを忘れてしまった。くっ……ことごとく、完敗……!

 

 体を起こして、皇のノートを開いた。淡い色の花びらの下に、美しい皇の文字が並んでいた。彼の長い指を思い出す。

 ふわりと、甘い香りが鼻をくすぐる。ノートに沁み込んだ皇の香りだった。


 サクラ茶、というものを思い出して、湯飲みに湯を注ぎ、花びらを二枚浮かべてみた。

 湯をすする。甘い香りと、熱い熱が体に沁み込んだ。

 

 熱いままの顔を覆う。

 萌えに酔ったこの気持ちを、はやく鎮めてしまわなければ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る