3話 帰り道でお仕事 6

「では、二つ目の枚数指定をお願いします」


「31」


 皇は、今度はサクラが多めに咲く枝の下に立った。

 風が、吹いた。

 いや。今度は、私が吹かせてやった。

 爆風で、花びらが上からも下からも舞い上がる。


「いち」


 皇が手を伸ばす。


「に」


 だが、皇のメガネに花びらたちが貼り付いた。

 皇が、「あ」と息のような声を零した。


「さん」


 皇の手のひらが、閉じた。


 皇は、私の両手のひらに、花びらを落とした。

 1,2,3……29。


「残念でしたね」

 

 ふっふふふ! 勝った! 当たり前だ。神の前に、たかが計算ごときが、叶うはずがないのだ!


 皇は、いかにも悔しそうに、下唇を静かに噛んだ。

 そして、メガネを取ってポケットに入れると――前髪を、かき上げた。


 固まった。美しい顔が、露になって……。

 しかも、本気の顔と言ったらいいのだろうか。昨日見たものより一層鋭さが増している……。


 だめだ、好きすぎる……!

 

「リベンジさせてください」


 皇が手を伸ばす。心なしか、ずっと見ていたはずの手も、美しく見える。

 風が吹いた。


「……いち」


 皇が呟く。


「に……」


 手首を回して花びらを攫う。


「さん」


 手のひらが、閉じた。


 呆然としたままの私に、皇が近づいてきた。

 片膝をついて、私の両手に、花びらを零す。

 私は、どきどきしたまま、皇のきれいな顔から目が離せなかった。


「……31です」


 にっと、勝ち誇ったように皇が笑った。


 ――か、かっこよすぎる――っ!

 この顔の、ポスターが欲しい…………っ!! 壁一面、もはや天井にも貼って、永遠に眺めていたい――っ!

 永遠に、私に、微笑みかけていてほしい……っ!


「では、二つ目の質問をさせてもらいます。時間も迫っているので……」


 ポケットからメガネを取り出し、かけようとしたので、私は昨日のごとく、「かけないで!」と叫んで止めさせた。

 皇は大きな目を開いたまま固まっていたが、メガネに目を落とした。


「昨日もそのように止められたのですが、どうしてですか?」


 うっ……! なんて答えにくい質問を……!

 というか、昨日は疑問も言わずに言うことを聞いたじゃないか!

 もしかして、女慣れしていないがために、こうして許可をとらないと質問してはならないと思っているのか? そういえば昨日もそうだった……!

 そうやって27も質問をため込んでいたなんて……きっちり真面目ピュア男め!

 くそっ。この顔だからか、どうしようもなく可愛く思える……!

 

 唇を噛んでにやけを抑えていると、「あの」と答えを催促された。

 どうするか……。本当のことを言うのは、なんだか敗北感がする、というか……単純に、恥ずかしい。

 だが、他にいい理由がみつからない! 

 私の頭の中は、この男の顔がしゅきぃ! という気持ちで埋め尽くされ、考える余地がなかったのである……!


 うっ、うぅ……うううぅ…………っ!

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