3話 帰り道でお仕事 5
「では、僕も、質問していいですか」
きゃんきゃん、と前方にいた子犬が吠えた。待たされすぎてじれたようだ。少女が「よし!」と言って餌を与えると、子犬は猛獣のように小さなおやつにがっついた。
そうだ。私もさっき、あんな風にじらされたのだ。こいつばかりに、さらっと質問させてやるのは平等じゃない。
そもそも私は神。あれだけの侮辱を受けた罰だ。「待て」に加えて「とってこい」で遊んでやる。
「3秒数えます。その間に、私が指定した数の花びらを採ってきてくれたら、いいですよ。質問して。
ただし、風に舞っているものだけ」
「それをしたら、自由に質問していいのでしょうか。現時点で27ほど質問事項があるのですが」
27!? なぜそんなに!?
逆に気になるが……。
「一回採ってきてくれたら、一つ質問をしていいです」
「分かりました。片手と両手、どちらですか」
「片手で」
「分かりました」
「では、6。ぴったりですよ」
「分かりました。風が吹いてから数えてください」
分かりました、だと? 神でもないくせに、六枚ぴったりでつかめるはずがないだろう。
皇は下と上を確認しながら移動し、あまりサクラが咲いていない枝の下で止まった。
ふわりと風が吹いた。
「いち」
皇が手を斜め上に伸ばす。
「に」
皇に、花びらが降る。
「さん」
何かを小さくつぶやきながら、ぱっと手を握る。
「採れました?」
「両手、開いてください」
両手を開く。皇が、閉じていたこぶしを、私の両手の上で開いた。
はらはらと、花びらが落ちる。
1、2、3、4、5……6。
ぴっ、たり……。
「どう、して……」
「花びらが落ちる数が多くない場所を選んで、花びらが手のひらに入ってきやすい角度に腕を伸ばし、六枚手のひらに入ったところで手のひらを閉じただけです。大した計算はしていません。
一つ目の質問、お願いします」
悔しいが、約束は約束だ。私は、「どうぞ」と促した。
「エルデさんは、日本茶は、飲めますか」
日本茶? ジャパニーズ・ティー。煎茶、抹茶、番茶、ほうじ茶といったあの香ばしい飲み物たちか。
「一度飲んだことはありますが、それきりです。日本文化のものは、何もかも好きです。ただ、普段は日本……」
酒を飲んでいるから飲まない、といいかけて唇を閉じた。ジャパニーズ・JKは酒を飲んではならないきまりだ。酒を飲んでるなどといったら怪しまれよう。
適当に、「普段は飲まないです」と言い直すと、皇は「そうですか」と呟いた。
……というか、何だ、この意味の分からない質問は。
もしかして、こういうこまごました質問が続くのか……?
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