2話 授業中にお仕事 5

「僕は大丈夫なので、彼女を見てあげてください。目だけ洗わせてください」


 保健室に入ると、皇が、私を椅子に座らせ、奥の手洗い場の方へ行った。


「この子はなんともないみたいよ。皇くんの方が怪我してる可能性ありそうだけどねぇ? 白衣こげてるし」


「大丈夫です。タオル借ります」


 皇は白衣を脱ぎ、カチャリとメガネを置いた。

 

 「それにしても、昨日も今日も背中……。背中運がとことん悪いねぇ。しばらく背中には気をつけなさいな」


 白衣おばさんは、実験室に怪我人がいるかもしれないからと保健室を出て行った。

 皇はザブザブと顔を洗っていた。

 

 遠い距離ではあるが、手がふさがっている今なら、仕掛けられる。

 萌えていない今なら、できない理由もない。

 二度も失敗をしでかしたのだ。これ以上失敗を重ねてたまるか。

 私は髪飾りを鎌に変えた。さっきまでの小さなものではない、天井に着くほど長い鎌。これこそ、私の鎌の本来の姿。

 さあ、三度目の正直だ。


 私は、鎌を振り下ろした。

 鎌の刃が、奴の首を斬りさかんとした、ほんの寸手で――。

 

 皇が、濡れた顔を私に向けた。

 

 手が、止まった。


 あまりに、美しい顔だった……。

 

 前髪は濡れたためか全て上がっていた。メガネも外れていた。だから、皇秀英の顔が、丸見えになっていた。

 やわらかな生え際も、透明感のある白い肌も、大きくて均等な二重も、整った眉も、すっと細く通った鼻も、薄い唇も、その下にある緋王様と同じほくろも、細い顎も……。


 そのどれもが美しく見えて……つまり……!

 

 顔が、好きすぎる――っ!


 あまりの動揺に、私は鎌を消失させていた。

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