2話 授業中にお仕事 4
――これだ。これなら、殺せる。
希望を見出し、顔を上げた私の瞳に4本のビーカーが映った。
同時に、作戦が閃いた。
残り4本のビーカーの中身を劇薬に変え、爆発を起こすのだ。
そしてメガネを木っ端みじんにし、何も見えない状態にして、鎌を振り下ろす!
東洋支部からの資料には、皇は物理的な攻撃を、ありとあらゆる方法ですべて無効にしてしまう、と書かれていた。
たとえ人に見えるはずのない死神姿で、死神の鎌を振りかざしたとしても。
ただの人間に、そのようなことができるものだろうか。謎だ。
だが、昨日は私が振りかざした鎌に気づいている様子はなかった。
それはおそらく、皇が私の髪飾りを探そうと、私から目をそらしていたためだろう。
視界を奪えば、いける!
そして万一鎌を振り下ろすまでの間に萌えそうな事態に陥ったら、こいつは根暗だと唱え、自分の目を覚まさせればいい。
完璧。
ビーカーを見て念じる。透明な液体が劇薬に変わった。
2本を手にした皇が、ぴたりと止まった。
「臭いが違う……?」
気づいたか。私は皇の手から2本を奪った。
「だめです、置いてください。それは混ぜると危ない劇薬で……」
「ジャパニーズ・アーティストの、好きな言葉があります。
”芸術は、爆発だ”」
フラスコの中に2つの劇薬を垂らす。たちまち、異臭が立ち上った。
皇の手が、私の持っていたビーカーを払った。
「伏せて!」
皇の声とビーカーの落ちる音と煙と異臭に、豚どもが異常事態を察知し、なんだなんだ!と騒ぎだす。
パァン!
破裂音と共に、豚どもの悲鳴が炸裂した。
私は、皇に両肩を押されて床に尻を突いていた。皇は膝をつき、私の盾になっていた。
しまった。失敗だ。
「おわっ、皇! 白衣が焦げてるぞ!」
「大丈夫」
豚の言葉にさらりと返すと、皇は私をさっと抱き上げた。
「――!!!!」
私を含む全員の声にならない声をあげた。
立ち上がった皇の体からパラパラとビーカーのガラス屑が落ちた。
「先生。念のため、保健室に行かせてください」
保健室は一階だった。皇は無言のまま、スルスルと階段を降りていく。
私は頭が真っ白だった。
なんなんだ、これは……っ!!
皇とくっついている部分から、体温がじんわり沁みてくる。首元から、甘くていい香りがする……。
心臓がバクバクする。目の前がチカチカする。
男の体にはじめてここまでくっついたからこうなっているのか?
まさか、そんなわけがない! そんな程度の事で、私が動揺しているわけがない!!
はっ! そうだ。
今なら、首の後ろに腕を回し、奴から見えないように鎌を振れば、いける……!
萌えるな私! こいつは根暗! 根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗根暗、根暗――――ッ!!!!
くっ……! だめだ……。動けない……。
ドキドキして、涙がにじんできた……。
皇が最後の一段を降りる。保健室がガラリと開かれた。
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