第6話 生徒会長と学院を去ったものたち
「……で、イフス女史。これは何ですの?」
『
「
「
ベルナデッタは継ぐ言葉を失った。
噴進誘導弾の存在は、旧王国時代の研究者たちの間では、比較的有名な話である。旧王国時代、大陸を統一した王朝は、この噴進誘導弾を使い、超長距離から敵を攻撃していた、と。
「実物は、初めて見ましたわ……」
「あたしもさね。もう少し時間を掛けて見てみたいけど、十中八九、間違いないと思うよ。それに翔んできたところがあのミルズ・ベラだからね」
「……女史はミルズ・ベラに詳しいようね?」
「そうだねえ。あそこにはよく行ったからねえ」
この学院の出身者であるフィッフス・ル・フェイには様々な逸話がある。この学院の生徒であり、生徒会長であるベルナデッタはよく知っていた。学院最高の頭脳の一人といまなお呼ばれていること。在学中には生徒会長を務め、
「よく?」
「『沈んだ塔』を知ってるかい?」
「もちろん。あそこの研究がなければ、いまの旧王国時代の研究もなかったと言っても過言ではありませんわ」
「『沈んだ塔』は、ミルズ・ベラへ向かう地下道の途中から分かれた先なのさ。おそらくあの娘も、それがあってミルズ・ベラに拠点を置いたのだろうねえ」
「……女史」
ベルナデッタはふと、引っ掛かりを覚えた。いかに緊張していようとも、緊張する相手であったとしても、その事を問わずにいられる性分ではなかった。
「なんだい?」
「女史はシスティリナ・ル・フェイと個人的に面識が?」
フィッフスはいま、ミルズ・ベラに拠点を置き、調査研究を行っているというシスティリナ・ル・フェイを『あの娘』と呼んだ。システィリナは、その真偽はともかく、世界を二分する大国のひとつである神聖王国カレリアの異端審問局から指名手配されている身である。そのシスティリナを『あの娘』と呼んだ口調は、親しい者を呼ぶようにも聞こえた。
フィッフスは苦笑したようだった。
「……直接の面識はないね。ただ」
「ただ?」
「システィリナが学院最高の頭脳の一人と呼ばれていることは、知っている。あたしと同じにね。それと、ユベールから、あの娘がこの学院を出ていった経緯も聞いていてね。なんとなく、他人には思えないのさ」
ベルナデッタは応じる言葉を探したが、何も見付からなかった。フィッフスの言うことは全て納得できたからだ。特にシスティリナがこの学院を出ていった経緯の部分に関しては、第三者目にもフィッフスと通じるものがあった。
「……さあ、準備をしようかね。あんたたちが行ってくれるなら、シホも心強いだろう。頼むよ」
そう言って笑顔で肩を叩かれた。学院最高の頭脳と呼ばれながら、学院を去ったものたち。そうした人間にしか分からない哀愁がその笑顔にあることを、ベルナデッタは感じた。
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