第13話 世界一で一番美味しい料理を作るのは?

「えーと、卵、卵……」

 鉱石がきらめく洞窟の中を私は歩いていた。

 手には一枚の紙を持ち、母に頼まれたものを探していた。

 この洞窟は村共有の食材などの備蓄置き場になっている。

 今日はレーリナが営んでいるレストランで必要な材料をメモを見ながら歩いていた。

 この洞窟は松明が無くても足元が見えるくらい明るいので、全然転ばずに歩く事ができる。

 しかし、メモを見ながらだったので、すでに七回ぐらいは転んでしまった。

 まぁ、それはともかく『卵』という立て看板の隣に大きな箱があったので、それを開けると無数の卵が置かれていた。

 良かった。孵化ふかはしていないみたいだ。

 この前、開けたら何十匹か殻から出ていて、私の事を親だと思ってしまって、本当の親に返すのに大変だった。

 まぁ、しばらくピヨピヨパラダイスだったから、良かったけど。

「えーと、卵四十個……と」

 私は大きめのカゴ一杯に卵を入れると、来た道を戻った。


「いつもありがとうね〜!」

 レーリナがカゴを受け取りながら笑顔でお礼を言った。

「いえ、これがお仕事なんで!」

 私がそう返すと、レーリナは「よかったらオムライス、食べていかない?」と言ったので、二つ返事でお願いした。

 料理を待っている間、私は空いている席を探した。

 今日もレーリナのお店は繁盛していた。

 席はカウンター六席にテーブルが五つあるが、まだ開店してまもないのに全部埋まっていた。

 それぐらいレーリナが作る料理は美味しいのだ。

 あ、もちろん、母が作るのも最高なんだけどね。

 レーリナの料理は最高の中でも最高の料理……ちょっとよく分かんないや。

「はいっ! お待ちどう!」

 そんな事を考えていると、レーリナが出来たてを持ってきてくれた。

 目の前に黄金の小山が現れた。

 ほのかに香るケチャップの酸味と卵の甘みが私のビコウヲ通り抜け、脳にダイレクトに伝わった。

「はは、うほほほほ、ヘヘジェジェ……ジュルル……」

 もうヨダレが止まらなくなった私はスプーンを手に取り、一つすくって食べた。

(ふんまぁあああああああ!!!)

 脳内で叫びたくなる旨さだった。

 やっぱり、オムライスといえばレーリナよ。

 チラッと周りの客を見てみると、既に完食しているにも関わらず、ボゥと明日の方角を見ていた。

 よくこの店の料理を食べた村人達が「完食してしまった哀しさと料理の満足感に思考回路がゼロになる」と言っていた。

 確かにこれは食べれば食べるほど、終わりが見えてしまうのが悲しい。

 けど、美味すぎてスプーンが止まらない。

「どう? うまい?」

 私の反応を見て、レーリナがニヤニヤしていた。

 私はスプーンを持つ手を無理やり抑えた後、ゴクンと飲み込んでから「最高です! もう楽園です!」とありのままの感想を伝えた。

「でしょ? やっぱり、私の料理は世界一だよね!」

 レーリナが満面の笑みで語っていた。

「ちょっと待ったーーー!!!」

 すると、ドアの方から馬鹿みたいに大きな声が聞こえてきた。

 私も客もレーリナも一斉に向くと、そこには頭身二メートルくらいの巨体が現れた。

 角が生えているという事はオーガなのだろうか。

 けど、格好がレーリナと同じ料理人の服を着ていた。

「このレストランが世界で一番うまい? バカを言うな。俺の店の方がうまい」

「はぁ? いきなりなにさ。あんたは誰なんだい」

 さすがに初対面で挑発されたらレーリナも険しい顔をしていた。

 料理人のオーガはドンッと胸を叩いた。「魔王八天王の一人にして『オムレツ大臣』のバトーナだ。魔界でオムレツ店の料理人をしている」

 へー、魔界にもオムレツっていう食べ物があるんだ。

 バートナはズカズカと店内を闊歩かっぽすると、レーリナの前まで接近した。

 レーリナも彼の図体に負けずに睨みつけていた。

「ふーん、魔物もちゃんとうまい料理が作れるんだね」

「舐めるな。魔物はお前らが思っている以上にグルメなんだ」

「ほー? そう言うんならさぞかしうまいんでしょうね」

「あぁ、お前よりな」

「食べた事ないくせに」

「食べた事ないが、匂いで分かる。俺より下だ」

「私もあんたの料理食べた事ないけど、たぶん私より下だね」

「ほぉ〜?」

「あぁ〜ん?」

 今にも殴り合いに発展しそうな雰囲気だったので、すぐに球体を取り出して変身した。

「待て待て待てーーーーの!!!」

 しかし、またドアの方からシェフがやってきた。

 今度はオーガではなく人で、鼻が枝みたいに長かった。

 よく見ると、鼻に『007』と書かれていた。

「おいおい、また弱小なのが来たな」

 バートナが揶揄からかうように笑ったが、鼻長シェフは気にしていない様子で華麗なステップで二人に近づいた。

「あなた達、無知にもほどがありーーーの! 私の料理が世界で一番うまいーーーの!!」

「はぁ?」

「何ですって?!」

 この言葉にバートナとレーリナは鼻長シェフを睨みつけた。

「お前は誰なんだい」

 レーリナが尋ねると、鼻長シェフは「私はオーセン! マルゲリータ王国一のシェフだーーーの!!」と一回転して答えた。

 すると、レーリナはフンと鼻で笑った。

「王国一ね……私は世界一の料理人なんだから、大した事ないね」

「ぬはぁ?!」

 オーセンはレーリナの挑発に腹がたったのか、鼻の先が真っ赤になっていた。

「あなたは無知だーーーの!! 私の料理を食べたらメロメローーーの!!」

「ふんっ! 私の方こそ完食するのが嫌になるくらい絶品だって評判よ!」

「それってマズイって意味じゃないーーーの?」

「違うわ!!」

「おいおい、待てよ」

 すると、ここでバートナが入ってきた。

 仲裁するのかなと思いきや、「俺の方が断トツでうまい。ただの大臣だった俺がオムレツのおかげで魔王に気に入れられて、今でも魔界のトップスターよ」と参戦した。

 これにレーリナとオーセンは張り合うように「私の方が美味しい!」「世界一だーーの!!」と張り合っていた。

 その間、私はオムライスを完食して、しっかり「ごちそうさまでした」と挨拶を終えた後、三人の仲裁に入った。

「だったら……誰が一番か、決めない? あなた達が得意とするもので」

 私がそう言うと、三人のシェフは納得した様子で頷いた。


↓次回予告

 料理対決?!

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