第9.5話 オムレツを食べたい魔王と踏んだり蹴ったりな王子様

◎魔王sideストーリー

 魔王八天王の一人、ズーラがやられたという知らせを受けた魔王は手早く次の八天王に村に行くように命じた。

「さて、仕事はここまでにして……行くか」

 早々に切り上げたバレーシアはオムレツ大臣が運営しているオムレツ専門店に足を運んだ。

 ただ城下町を堂々と歩いていたら、国民が大騒ぎするので、ローブ姿で散策した。

 途中、魔物二匹にナンパされたが、相手が魔王だと分かると信じられないくらい謝って逃げてしまった。

 そんなこんなでオムレツ専門店に辿り着いた。

 こう見えて、魔王はキチンと行列には並ぶ。

 オムレツ大臣が作るオムレツは国民にも親しまれていて、現在一時間待ちの行列だった。

 待っている間暇だと思っていると、可愛らしいメイド服姿の店員が並んでいる魔物にメニューを渡していた。

「よろしかったら、待っている間、どうぞー!」

「あぁ、すまない」

 魔王は店員からメニューを受け取ると、何を食べようか考えた。

「うーん、無難な具なしにするか。チーズもあるのか。かなり種類があるな。キノコチーズ、ベーコンチーズ、ほうれん草チーズ……二倍の量にもできるのか。最高だな。

 辛いのもあるのか。死ぬほど辛いとあるが……前に魔界一辛い唐辛子を食べたが私は何ともなかったぞ。

 うおっ、ソースも選べるのか! 王道のケチャップにデミグラスソース、ホワイトソース……どれにしよう」

 全部口で言ってしまっているので、前の列にいる魔物は背後にいる彼女を奇怪な者として、あえて注意しない事にした。

 なんやかんやで、店内に入り、店員に「ご注文は?」と聞かれたた。

「チーズ二倍のオムレツを一つ。ソースは熟成トマトソースで」

 魔王はそう言うと、店員は「かしこまりました〜!」と笑顔で厨房へと向かった。

(どんな感じなんだろう。楽しみだ)

 表情はクールだったが、心の中は子供みたいにワクワクさせて待っていた。

「魔王八天王様の凱旋だーーーー!!!」

 すると、大通りの方から声が聞こえてきた。

 この一声に店員や客達は慌てて外に出てしまった。

 その中にシェフもいた。

「あれ? 私のオムレツは?」

 魔王はシェフに聞こうとしたが、その前に外に出てしまった。

 バレーシアはふと『一日に一回魔王八天王によるパレードを行わなくてはならない』という法律を作った事を思い出した。

 そして、『いかなる状況であっても必ず参加しなくてはならない』という法律も。

(よりにもよって……なんで、こんな時に)

 魔王は舌打ちをして、睨むように外の景色を眺めた。

 国民達が手を振ったり叫んだりしているのが見えた。

 魔王八天王(四体しかいない)はドラゴンにまたがって嬉しそうに彼らの声援に応えていた。

 バレーシアは早く終われと願ったが、ゆっくりと進んでいたため、イライラが募っていった。

「もういい! 自分で作る!」

 我慢の限界に達した魔王は厨房に入り、冷蔵庫から卵を取り出すと、ボールに入れてかき混ぜた。

「どうせ作るなら母のオムレツにしよう」

 バレーシアはそう言いながら前回食べ損ねたオムレツを作った。

 仕上げのケチャップをかけて、自分の席に運ぼうとした――が。

「急いで料理を作らないと!」

 パレードが終わったのか、シェフ達が厨房に戻ってきた。

 魔王は慌ててオムレツを置いて、透明化の魔法をかけて姿を消した。

 シェフは出来たてのオムレツがある事に驚いたが、特に気にする事なく店員に渡していた。

(あぁ、私の母の味が……)

 バレーシアは自分が食べる予定だったオムレツを取られてしまった事にショックだったのか、お勘定だけ置いて魔王城に帰ってしまった。

 後日、オムレツ専門店を訪れた客の間で『バチクソうまいオムレツがあった』と話題になっている事をバレーシアは知らなかった。

 

◎王子様sideストーリー

「なに? 旅に出た?」

 マルガリータ王国の娯楽室でのんびり過ごしていたマルチーズ王子はオーワンからの報告に目を丸くしていた。 

「はい。村には潜入しましたが例の村娘に声を掛けられ、一緒に親友の誕生日をお祝いをする事になりました。

 その時、村娘と一緒に歌と踊りを披露した所、大絶賛だったらしいのです。

 これに自分達にはエンタテイナーの才能があると感じ、世界中を旅するとか言ってどこかに行ってしまいました」

「なぁ〜〜んで、そうなるかな〜〜?」

 王子は人形達の行動が理解できないのか、それとも自分の思い通りに行かない事に苛立っているのか、髪をクシャクシャにしていた。

「くそっ、なんの変哲ない村なのに、なんでこうも手間取ってしまっているんだ……」

「決まっているじゃない。あの村娘よ」

 マルチーズ王子が苦悩した顔を浮かべる中、絶賛テディベア作りに励んでいるオーツンが目のボタンを付けながら言った。

「村娘……モプミの事か」

 王子は顔を思い浮かべようとしたが、モプミの超が付くほどの平均顔のせいか、全く思い浮かばなかった。

「そいつを倒せば、村は手に入るかもしれないな」

「でも、なんか魔法を使えるみたいよ……って、この前に言ってオーサン達を派遣させたんだよね……オーワン、なんか魔法使ってた?」

「いえ、全く」

「じゃあ、他の人形達にするか」

 王子はそう言って立ち上がると、オーワンとオーツンを連れて地下室へと向かった。


 地下室へ向かう途中、来客と出くわした。

 大勢の召使いの中に王子が恋い焦がれていたお姫様もいた。

「あ、あの爆乳は間違いない! アルーるべじゃぶぎゃっ?!」

 王子は下心剥き出しで姫の所に駆け寄ろうとしたが、いつの間にか目の前に屈強な肉体を持つメイドが立っていた。

「王女、王妃を汚すケダモノは排除」

 メイドはそう呟きながら王子を殴り続けた。

「ちょ、ぶぐっ?! やめ、べぎゃ! ぐぼっ! がほっ! べほっ?!」

 メイドによる猛撃は王妃達の姿が見えなくなるまで続いた。

「では、失礼するわ」

 オーワンとオーツンに一礼した後、メイドは小走りで後を追った。

 こてんぱんにされた王子は陸に上がった魚みたいに痙攣していた。

 一部始終を見た人形達は顔を見合わせた。

「……オーワン、どうする?」

「うーん、自業自得ですね」

「行こっか」

「そうですね」

 オーワンとオーツンはこの王子をどうしようか話し合った結果、そのまま放って置く事にした。

 置いてけぼりにされた王子は自力で意識を取り戻すと、壁や柱を使ってどうにか立ち上がった。

「ぐ、ぬぬ、おのれ……マッチョメイドめ……ち、父上に訴えて……なっ?!」

 王子は何となく天井を見たが、硬直してしまった。

 天井に頭が刺さっている執事や大臣などがぶら下がっていた。

 その中にはマリトーツォ国王もいた。

「ち、父上……」

 マルチーズ王子は国王の悲惨な姿に膝から崩れ落ちた。


 どうにか地下室まで辿り着いた王子はオーワンとオーツンを探した。

 彼女達はある一体の前で話していた。

「おい、お前達! 支配者マスターなのに何故助けてくれ……うわあああ!!!」

 王子が驚くのも無理はなかった。

 その人形はあのメイドと似たような筋肉ムキムキだったからだ。

 しかし、男だった。

 上半身裸の大男だった。

 胸に『006』と記されていた。

「彼だったら倒せそうね」

「そうね。いけそう」

 二人はウンウンと頷くと「支配者マスター、呪文を」と言って王子の方を見た。

「全くいつからそんなに偉くなったんだ……まぁ、いいか。ちょっと待ってて」

 王子は急いで棚の方に向かうと、背広に『6』という数字が書かれた本を取り出した。

「えーと……あった!」

 王子は手を大男に向けると、呪文を唱えだした。 

 あまりにも長いので省略する。

 すると、大男の白目から黒い目に変わり、拘束された手枷などを自力で破壊した。

「ウゴォオオオオ!!!」

 大男は雄叫びを上げた。

 その声量は凄まじく地下室が今にも崩れそうだった。

「凄い……凄いぞ! これだったらモプミを倒す事ができる!」

 王子は彼の姿を見て嬉々とした表情を浮かべた。

「さぁっ! オーロクよ! ポポポポー村に行き、村を壊滅させるのだーー!!!」

 王子は彼を指差して命じた。

「ウゴォオオオオ!!!」

 オーロクは応えるかのようにもう一度叫び、地下室の外に走っていった。


↓次回予告

モプミ、風邪を引く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る