第10話 よく喋る狼だ

 朝起きると、どういう訳か頭がクラクラしていた。

 母にその事を伝えたら、すぐにカーチェスさんの診療所に行きなさいと言われたので、トボトボと歩く事にした。

 あぁ、寒気がするなと思いながらどうにか辿り着き、皺くちゃお爺さんの医者に診てもらうと、風邪だった。

「まぁ、数日寝れば良くなるじゃろう!」

 カーチェスはお大事にと言って、私を診療所の出入り口まで見送ってもらった。

 出来る事なら家まで送ってほしかったけど。

 早く帰ろうと思っていた――その時だった。

 村の入り口に誰か立っていた。

 嫌な予感がした。

 たぶん魔物――いや、絶対に魔物だ。

 だって、狼が二足歩行しているなんて魔物以外考えられない。

「ヌハハハハハ!!! 私は魔王八天王の一人にして、下位四王の中でも最強と呼ばれる男……その名はスーパーウルフマーーーンだ!!!

 魔王様からの直々の命により、この村はこのスーパーウルフマーーーンがメチャクチャにしてやる!

 手始めに村中の女達を集めて、子孫繁栄の手伝いをしてやる!

 いいかーー! これから生まれる子供はーー! 全員ケモミミになるからなーーー!

 尻尾も生えるぞ! そして、よく喰う!

 食べ盛りの時は食費がかさむぞ〜〜?

 この村中がモフモフパラダイスになるんだ!

 そして、成長したら父親である俺様ウルフマーーーンがボスとなって世界を支配してやるんだ!

 いや、女だ! 世界中の子孫をケモミミだらけにしてやるんだ!

 あ、それっ♪ モッフモッフ♪ モッフモッフ♪

 モフモフパラダイス〜〜♪

 ただーーーし!! 野郎どもは扱いが違うぜぇ……。

 二度と人間の女を抱けないように、サキュバスに頼んでハレーーーンチな事をして、野郎どもをヘニャへニャにしてやるからな!

 サキュバスは恐ろしいぞ! なんて立って、精力絶倫だからな!

 てめぇら、人間ごときが太刀打ちできないぐらいヘニャへニャにしてやるぞーーー!!!

 それからガキ! ガキは適当に遊ばせて、好きなもの食べさせて、とにかくワガママにさせてやるぜぇ〜〜〜〜?

 それはもう手の付けられないぐらいにワガママになるぜ!

 そしたら、将来大変だろうなーーー?

 色々迷惑をかけて、かけて、かけまくって……そして、いつか自分の過ちに気がついて、改心して、真面目に働いて、親孝行するんだろうな。

 だが、それまで持つかなーーー? んん〜〜〜〜?

 あと、老人! ジジィとババァ!

 お前は無力だが知恵がある!

 だから、絞れるだけ絞った後はもう用済み……なーーーんにもしなーーーい!

 ムハハハハハハハ!!!! なんかすると思っただろ?!

 残念! しなんだなーーー! これが!

 せいぜい残り少ない人生を謳歌するがいい!

 あとは金だ!

 金をよこせ! とにかく金をよこせ!

 この村中の金を集めて……じっくり眺めて、『これが村の全資産』かと眺めた後に返却してやるーーーー!!!

 ムハハハハハ!!!! 金は人間どもが使うやつだ!

 魔物が使う訳……あれ?

 城下町で使わなかったっけ?

 あれ? 記憶が……まぁ、いいや。

 そうだ! 大事な事を忘れてた!

 俺様は今、腹ぺこなんだ!

 とにかく飯を食わせろーーーー!!!

 ぬぁんでもいい! とにかく汚いものと腐ったものでなければ!

 昨日の余り物でもいい! 適当に作ったやつでもいい!

 食わせろ! とにかく食わせろ!

 ペコペコペコペコペコペコペコーーーーだーーーー!!!

 お腹がペコーーーーーだーーーー!!!

 焼肉♪ 焼肉♪ 焼肉♪ 焼肉♪

 ただ言ってみただけーーー!!! ムハハハハハ!!!

 ムハハハハハ……ちょっと喋るの疲れたな。

 ちょっと休憩」

 狼はそう言ってしゃがみ込んだ。

 さっきまでの喧騒は嘘みたいに静かで、ジットしていた。

 少しすると、「よし。そろそろ良いな」と言って立ち上がり、咳払いした。

「ゲホン! ゲホン! 俺様の名前はスーーーパーーーウルフマーーーーン!!!

 再び参上だぜ!

 さぁ、何の話だったっけな?!

 何だったっけ?

 えーと、あーと、うーんと……そうだ!

 この村は俺様のものだーーーー!!!

 よこせぇーーーーーー!!!

 ふぉーーーーーー!!!

 いぇーーーーい!!!

 盛り上がってるーーーー?

 はぁ……叫び続けるのも楽じゃないや。

 あとは……あとは……うーんと、まぁいいや!

 てめぇら、今から俺様の華麗なる進撃が始まるぜぇーーーーー?

 魔王八天王の一人である俺様、スーパーライトウルフマーーーーンが今から村を恐怖のドン底に陥れるからなぁ!

 かぁくぅごぉしぃろぉーーーーー!!!

 うゎおぉーーーーーん!!!」

 なんかよく喋る狼だな。

 本当は相手にしてあげたいけど、残念な事に風邪なので、戦えなかった。

「まずはてめぇからだーーーー!!!」

 最悪な事に私が狙われてしまった。

 あぁ、どうしよう。

 逃げたいけれどうまく足が動かせない。

 そうこうしているうちに、奴が来てしまった。

「ムハハハハハ!!! ハハハハ!! 人間は遅いなぁ!? こんな早歩き程度で追いつけるなんて!」

 狼男は大口を開けて笑うと、私を睨んだ。

「さぁ、覚悟はいいか?」

 終わった。

 私の人生が終わってしまった。

 まさか風邪の状態で狼に喰い殺されるなんて。

 自分の死が迫ってきているからなのか、全身の力抜けてしまい、その場にへたり込んでしまった。

 なんで肝心な時にシャーナやチュプリン来ないんだ。

 心の中で悪態をついた――が。

「おい、どうした?」

 狼が心配そうな顔でこっちを見ていた。

「あの……かぜ……なの」

 私は苦し紛れにそう言うと、狼は「ぬぁーーーんだってぇーーーー?!」と馬鹿みたいな大声で驚いていた。

「メチャクチャ大変じゃねぇか!」

 狼はそう言うと、私を担いで走った。

「お前ん家、どっちだ?」

 どうやら送ってくれるらしい。

 私はボソボソ言いながら彼を案内させた。


 家に着くと、狼は私をベッドに寝かせてくれた。

「よーそ! 子守唄を歌ってやるからな!

 眠れ! 眠れ! 眠れ! 眠れ!

 とにかく眠れーーーー!!!

 寝ると元気になる!

 寝るとパワフルになる!

 寝ると幸せになる!

 眠れ! 眠れ! 眠れ! 眠れ!

 とにかく眠れーーーー!!!

 ほう♪ ほう♪ ほう♪

 うぉう♪ うぉう♪ うぉう♪

 ここで、語りを入れるぜーーーー!!!

 この前食べたオムレツは信じられないくらい美味しくて、いつか母ちゃんに作って貰おうと思って店に行ってレシピを教えてもらおうとしたけど、全然駄目でしたーーーー!!!

 眠れ! 眠れ! 眠れ! 眠れ!

 とにかく眠れーーーー!!!

 カツ丼食いてぇーーーーー!!!

 ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!

 あぉうぉーーーーーン!!!

 ラストスパーーーート!!!

 眠れ! 眠れ! 眠れ! 眠れ!

 とにかく眠れーーーー!!!

 寝ると元気になる!

 寝るとパワフルになる!

 寝ると幸せになる!

 眠れ! 眠れ! 眠れ! 眠れ!

 とにかく眠れーーーー!!!

 いぇあ!」

 歌というか、ほぼ叫びに近い子守唄を聞かされながら私は就寝した。


 翌日、私はよく寝たからか元気になった。

 が、あの狼の姿がどこにもなかった。

 チュプリンに聞いてみると、シャーナが変身して倒したらしい。

 チュプリンが私の部屋に明らかに音痴な歌声が聞こえてきたので、何だろうと思って見てみると、狼がいた。

 すぐにピャメロンに連絡してシャーナを呼んで倒した――とのこと。

 私は「そっか」しか返せなかった。

 たぶんアイツ、良い奴だったかもしれないのに。

 でも、まぁ、仕方ないか。

 ちょっとセンチメンタルな気分になったので、私はあの狼が歌ってくれた子守唄を鼻歌で歌ってみた。

 メチャクチャやりづらかったので、すぐに止めた。

 口で歌ってみたら、結構村の人達もハマって、しばらくの間は狼の子守唄が流行歌になっていた。


↓次回予告

モプミ、恋のキューピッドになる?!

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