第8話 バチクソ忙しいから変わりに戦って!

「モプミ、今日は忙しいわよ。

 まずカーラおばさんに卵を五十玉運んできて。

 次はシャートルおじさんにフレッセーナさんのパン屋でチーズパンと揚げパンを渡した後、フレッセーナさんの所に戻って小麦粉を五キログラム運んで。

 それが終わったら、ヘーラさんに牛乳十二本を届けて。

 そのあとは村長と村の役人達に牛乳の差し入れ。

 カーチェスさんの所にも牛乳とチーズもお願い。

 ジュージュおじさんがヨーグルトを食べたいって言ってきたから、五百グラム運んで。

 それが終わったらポーストさんに牛乳と卵とチーズとヨーグルトを。

 ポーポさんにはチーズとヨーグルト。ポポターさんにヨーグルトと卵。

 ポスターさんにヨーグルトだけを。あとは……」

 信じられない量の配達の注文が来てしまった。

 あまりの多さに「一泊二日でやるの?」と聞いたら、夕暮れまでにやれと言われてしまった。

 うへー、そんなのありー?

 確かに最近配達ないから暇だなとは_思っていたけど、さすがにここまでの量を一日やるのは無理すぎやしないか?

 文句の一つでも言いたかったが、親子喧嘩していると私の配達を待っている村の人達に迷惑がかかってしまう。

 それは嫌だ。

「イエッサー、ママン」

 私はビシッと敬礼した後、卵五十玉入っているカゴを持って家を出た。

 全速力でカーラおばさんに卵を届けると、すぐにフレッセーナさんのお店までダッシュした。

 フレッセーナは私を見ると、嬉しそうに出迎えてくれた。

「おはよう、モプミちゃ……」

「チーズパンと揚げパンをお願いします」

 彼女が挨拶している途中ですぐに注文した。

 フレッセーナはいつもと違う対応をする私に戸惑っている様子だった。

 私は心の中で『ごめんなさい』と謝った後、パンを受け取ってシャートルおじさんの方へ走っていった。


 こんな調子で一歩間違えれば気絶してしまいなくらい忙しない配達をした。

 飲まず食わずでヘロヘロだったが、配達終わりのご馳走を楽しみに頑張った。

 さぁ、次は――と配達先を確認していた時だった。

「ハハハハ!!! 魔王八天王の一人、ズーラ様が直々にこの村を滅ぼしに来たぞーー!!

 弱小種族よ、覚悟するんだーーー!!」

 最悪だ。こんなバチクソ忙しい時に魔物に襲撃されるなんて。

「大変よ!」

「魔物が襲いにきたわ!」

 よりにもよって、チュプリンとピャメロンの白黒猫コンビで私に村の危険を知らせてきた。

「えー、今はそれどころじゃないの! 配達をあと二十件ぐらい終わらせないといけないのよ!」

「いやいや! まずは魔物退治が最優先でしょ!」

「そうよ! 魔物を倒せるのはあなたしかいないんだから!」

 二匹の猫に圧力をかけられてしまった。

 でも、このまま牛乳を置いて倒しに行ったら腐っちゃうし、夕暮れまでもうすぐだし……。

「ぬわあああああ!!! どうしたらいいのぉおおお?!」

 圧迫するスケジュールにもうてんてこ舞いになっていた――その時だった。

「お困りかい?」

 私の前に救いのヒーローがやってきた。

「シャーナ! 助けてくれるの?」

 親友は「えぇ、もちろん」と言って手を差し出した。

「あなたの代わりに魔物を倒してあげる」

「な、なんですって?!」

 私の代わりにシャーナが魔物を倒す?

 何それ、最高じゃない!

「じゃあ、お願いね!」

 私はポケットから球体を親友に渡すと、そのまま次の配達先へと走った。

「え? モプミーーー!!!」

「戻ってきなさーーーい!!」

 チュプリンとピャメロンは私を呼び戻そうとしたが、私の頭の中は配達の事でいっぱいだったので、一切振り返る事なく走った。


 配達の合間で見た限り、シャーナは大活躍していた。

 魔法少女の格好も似合っていたし、戦う姿もイキイキとしていた。

 相手は巨大なスライムだったが、最初は打撃で挑んだが効かない事が分かると、すぐに呪文を唱えて撃沈させた。

 白黒猫コンビは唖然あぜんとしていたが、シャーナは大満足していた。

 もう私じゃなくてモプミがやればいいんじゃないかな。

 そんな事を思いながら次の配達に向かった。


「あれはどういう事なの?」

 チュプリンが目を三角にして聞いていた。

 全ての配達を終えるや否や、白猫と黒猫にすぐに呼び出されて、正座させられてしまった。

「いや……シャーナがやりたいって言うからやらせただけだけど?」

 私は彼女が怒っている理由がイマイチよく分からず首を傾げていると、ピャメロンが溜め息をついた。

「あのね。あの球体は選ばれた者しか使えないの」

「シャーナも普通に使えたじゃない。彼女も選ばれた者だったって事ね」

「いや、あれは……その……うーん……まぁ、ちょっとチュプリン! 何か言って!」

 どうやら的を得た事を言われてしまったからか、ピャメロンが困った顔をして白猫に助けを求めていた。

 チュプリンは真面目な顔で「もしシャーナが負けていたら?」と聞いていた。

 親友が負ける――つまり、大怪我が最悪死ぬという意味だ。

 私は改めて自分の行動を思い返した。

 あの時、私はシャーナに魔物退治ではなく配達を任せればよかったのではないか。

 私の方が戦闘経験は上なのに、初心者に戦いを任せてしまった。

 今回はたまたま運が良かっただけで、もし相手が強敵だったらと思うと……冷や汗が止まらなかった。

 私の軽率な行為で危うく親友の命を奪ってしまう所だった。

「……ごめんなさい。もうしないわ」

 私は頭を下げた。

「ちょっと待ったーーー!」

 すると、シャーナがどこからともなく乱入してきた。

 親友は「ちょっとどいて」と私を突き飛ばすと、二匹の猫の前に正座した。

「さっきから話を聞いていると、なに? まるで私が足手まといみたいな言い方じゃない!」

「いや、それは……」

「私、ちゃんと戦えてたよね? 余所見してたの?」

「いや、ちゃんと見てたけど……あの……私が言いたいのは命の危険を伴う責任を安易に譲与してはいけないと……」

「私だって村の役に立ちたいもん! 私、メタちゃんが配達で遊べない日はずっと散歩しかしてないのよ?! 暇で暇でしょうがないのよ!

 お願いだから、私に仕事をちょうだい!

 毎日にやりがいをちょうだーーーい!!!」

 シャーナの熱意にチュプリンとピャメロンは困惑していた。

 私はシャーナが暇人だという事を初めて知った。

「でも、前に子供達の読み聞かせしてたじゃない」

「あれは月に一回しかないの! それ以外はほとんどやる事ないのないの!」

 あ、そうなんだ。

「つまり、一番興味を持っているのが魔法少女ってことで間違いない?」

「うん! そうだよ!」

 シャーナの解答を受けて、チュプリンとピャメロンはヒソヒソと話していた。

「どうする?」

「暇人がやれるような仕事じゃないでしょ」

「でも、センスはあった」

「確かにモプミよりはいいし、やる気もある」

「それじゃ……採用でいい?」

「うん。一人でも多い方がいいと思う」

 白黒コンビはシャーナの方を向いた。

 ピャメロンだけ前に出ると、何もない所から三角形の箱を出現させた。

「こ、これはもしや!?」

 シャーナはすぐに察し箱を受け取ると、「メチャラモート!」と唱えた。

 すると、ピャメロンが吸い込まれていき、黒いスカートとブーツに変わった。

「うぉ? おぉっ! おっ! おおおおおお!!!」

 シャーナは自分が変身している事に感激していた。

 そして、「うぉおおおお!!! 脳内に誰か話しかけてくるぅううう!!!」と大熱狂していた。

「シャーナ、今日からあなたも魔法少女よ」

 チュプリンは若干演技臭い口調で言ったが、シャーナは興奮し過ぎて鼻血が出てしまった。

 私はその光景を我が子を見守るような眼差しで見ていた。

 おめでとう、シャーナ。


↓次回予告

シャーナのお誕生会、開催!!!

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