第4話 配達がない日ってこんなに暇なのね。

 今日は配達がないので、一日中ボゥとする事にした。

 特に何かする訳でもない。

 ただ椅子に座って考えるだけ。

 絵を描く訳でもない。

 でも、時間が経てばお腹が空く。

 だから、空いた時は下に行ってお母さんにご飯を作ってもらう。

 忙しそうだったら私が作るけど。

 今日はお母さんが牛の世話をしているので、自分で作る事にした。

 今日はフレンチトースト。

 ヒタヒタにパンを染み込ませるのが一番美味しい。

 鼻歌を歌いながらフォークとナイフで切って、一口食べる。

 うーん、最高。

 私好みの甘さに仕上がっている。

 食べ終わったら、皿を洗って片付けて。

 そしたら、部屋に戻ってまたボゥとする。

 でも、何もしないのもさすがに人生を無駄にしているような気がする。

 なので、クレヨンで絵を描く事にした。

 何を描こう。

 何を描けばいいのだろう。

 どうしようかな。

 リンゴにしようかな。

 でも、リンゴじゃありきたりだからな……羊にしようかな。

 羊は数が多すぎるか。

 だったら、ペットの猫ちゃんを描こう。

 うーん、12匹も描くのもなぁ……かったるいな。

 どうしよう。

 真っ白のままだ。

 ミカンでも描こうかな。

 みかんは……うーん、最近食べてないから思い出せないや。

 マンゴーは?

 そうだ、マンゴーを描こう。

 マンゴー……あ、そうか。

 マンゴーは村長さんの家しか生えていなかった。

 お絵かきをするためにわざわざ出かけるのもなぁ……うーん、どうしよう。

 面倒くさいからやめよう。

 あーあ、まだ真っ白のままだ。

 そうだ。

 私の似顔絵を描こう。

 えーと、目は丸で、口も丸で、顔も丸で……あれ?

 なんか変になっちゃった。

 まぁ、いいか。

 ここに私の名前を描けば自分だと分かるはず。

 うんうん、これでよ……いや、駄目だ。

 足りないじゃん。圧倒的に。

 ここに猫達を描かないと。

 けど、12匹……うーん、いっか。

 時間は死ぬほどたっぷりあるからやっぱり描こう。

 猫、猫、ねーこ、ネコ、ねこ……あれ?

 今、何匹目だっけ?

 えーと、1、2、3……あぁっ! 分かんなくなっちゃった!

 もうお絵かきはやめよう!

 シャーナの家に遊びに行こう。

 そしたら、良い暇潰しができるかもしれない。

 あ、ちょっと待って。

 今日は用事があるんじゃなかったっけ?

 うーん……確か子供達の絵本の読み聞かせだっけ?

 時間は……ちょうど始まったばかり。

 じゃあ、シャーナとも遊べない今、私は何をしたらいいんだ。

 そうだ。お母さんのお手伝いをしに行こう。

 あ、でも、私が入るとかえって邪魔か。

 じゃあ、歌を歌おう。

 作詞は自分。作曲も自分。

 タイトルは……そうね。

 後で考えよう。

「丸の〜♫ 上に〜♫ 四角い〜♫ 鼻が〜♫ 落ちたら〜♫ それはもう〜♫ 恋のはじま〜♫ りぃい〜♫」

 うん、悪くない。

 紙に書いておこう。

 はぁ、それにしても配達がないだけで、こんなに暇をもてあますとは。

 何もやる事がないなんて。

 みんな時間を貰いすぎると、頭がふやけちゃうから仕事をしているのかな。

 はぁ、もういいや。

 散歩しに行こう。

 今日は村をいっ……ふぐっ?!

 その時、私の身体にある衝撃が襲い掛かってきた。

 腰にまるでハンマーでも殴られたかのように痛くなったのだ。

「あっ、がっ、ぐ……」

 これはまずい。

 呼吸もままならない。

 腰が痛すぎて、両脚がガタガタ震えている。

 この症状、間違いない。

 ぎっくり腰だ。

 嘘でしょ、この歳でなるの?

 もう少し歳を重ねた人が起きるものじゃないの?

 でも、現にこうなっている訳だから……今はベッドに眠ろう。

 私はゆっくり歩いた。

 それでも腰にナイフが刺さったかのようにズキズキと痛む。

 呼吸もあまりできない状態で、口から普段出ないような音が漏れた。

 どうにか倒れ込むように寝ると、私は目を閉じた。

 治っていますようにと祈りながら。


 どれくらい経ったのだろう。

 目を開けると、さっきまでの痛みは綺麗サッパリ無くなっていた。

 すんなりと立ち上がる事もでき、普通に歩く事もできた。

 一体どういう原理でこうなっているの?

 そうか、睡眠だ。

 睡眠で腰の調子が良くなったんだ。

 でも、ギックリ腰って寝るだけで簡単に治るものだっけ?

 いや、違う気がする。

 でも、元気になったから良かった。

 さて、腰の調子も良くなったし、村の散歩をしに行こう。


 家を出ると、私は歩き出した。

 村を一周する予定だ。

 ついでに配達の依頼が来ないか期待しながら歩いていた。

 けど、何周も歩き続けても、一向に声をかけられる事はなかった。

 えー、普段はいっぱい注文が飛び交うはずなのに。

 仕方ない。今日は少し離れた場所で涼みに行くか。

 と、その前にシャーナが子供達の読み聞かせをしている所を見学してみよう。

 私はそう思い、会場へ向かった。


 読み聞かせはある家を借りて行われているらしい。

 そこに辿り着くと、子供達のザワザワした声がドア越しからでも聞こえてきた。

 中に入るのは少し抵抗があったので、窓から覗き込む事にした。

 シャーナが大勢の子供達の前で絵を見せながら話していた。

 子供達は笑ったり驚いたり純粋なリアクションをしていた。

 うーん、これはまだ終わらなさそうだなぁ。

 よし、川に行ってみよう。


 川には誰もいなかった。

 静かに歌っているかのように流れている音が耳に入ってくる。

 それを聞いていると、心が落ち着く。

 水面みなもには小魚がスイスイ泳いでいた。

 それを見た私はピンと来た。

 そうだ。釣りをしよう。

 けど、釣り竿を持っていなかったので、明日にする事にした。


 家に帰った私は何だか疲れてきてしまい、手を洗った後、部屋に戻った。

 倒れ込むようにベッドに寝た。

 今日は何だかせましなかったな。

 時間を埋めようとして必死だった気がする。

 まぁ、いいや。

 寝よう――と目をつむった。

 けど、すぐには寝つけられなかった。

 身体は疲れていても頭は疲れていなかった。

 じゃあ、脳内でひたすら走り続ける光景を想像してみる事にした。

 恐ろしいぐらいに眠気が来たので、私は再度目を瞑った。

「大変よ!」

 ようやく夢の中に入りそうな時だったのに、チュプリンが邪魔をしてきた。

「なに?」

「オークが攻めて来たの!」

「え〜? また〜?」

 もう何回倒したら収まるのよ。

「分かったわ。何体いるの?」

「いや、一体だけよ」

「そっか……じゃあ、メチャラモート」

 私はしぶしぶ球体を取り出して、変身した。

 窓を開けてみると、村の入り口で黒いローブを着ている赤いオークが目に入った。

「ハハハハハハ!! 俺は魔王八天王のうちの一体、ブボボボだ!

 今からこの村を滅ぼすから覚悟しろ!」

 あー、もううるさいなぁ。

 最近魔物がやってきて、全然休めていないんだよ。

 いや、今日は休めたか?

 でも、お絵描きしたり作詞したりギックリ腰になったりと何かと忙しかったから、休めてはいないか。

 まぁ、何はともあれ、アイツがいるとゆっくりできないので退場させてもらいましょう。

「ポポポポーーー!!!」

 私は赤いオークに向かってどこかに行ってくれるように念じた。

 すると、赤いオークの周りに竜巻が襲いかかってきた。

「ぶほっ?! ぶほ〜〜〜!!!」

 赤いオークは抵抗する暇もなく、足が地を離れ、風の中でグルグル回転していく。

 そのままポーンと飛んで行って、天高く消えてしまった。

「はぁ、終わった」

 私は変身を解除すると、そのままベッドに入り眠った。


 今日の夢は実にパラダイスだった。

 船に乗った王子様が溺れている私を助けてくれたのだ。

 王子様――そういえば、彼はどこに消えたのだろう。

 オークの大群と戦ったきり姿を見せていないけど……帰ったのかな?

 何も言わずに帰るのはどうかと思うけど……まぁ、いいや。

 今はどうでもいいや。

 夢を楽しもう。

 夢の中では何も考えなくていいから。


↓次回予告

人形とのバトルよりも釣りがしたい

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