第3.5話 それぞれの野望

◎魔王sideストーリー

 魔王バレーシアは死ぬほどキレていた。

 玉座の肘掛けに頬杖を付けて、もう片方は指をカタカタと鳴らしていた。

 それが静まり返った謁見の間に響き渡っていた。

 側に控えている家臣や衛兵達は固まって、震えていた。

 この状態の彼女の機嫌は最悪といっていいほど悪いと分かっているからだ。

「……もう一度聞く」

 バレーシアは凍りつくような声で、彼女の前にひざまずいている眼帯オークに聞いた。

 眼帯オークの肩がビクッと飛び上がっていた。

「……村は攻め落としたんだろうな?」

 静かだが声に殺気が漂っていた。

 眼帯オークの顔が汗でビッショリになっていたが、無言は無言で死罪になるので、彼は顔を上げてもう一度言った。

「で、ですから、よく分からない村娘が魔法を使って、お、俺様の部下を笑い死にさせ……」

 眼帯オークがまだ話している途中で、バレーシアは肘掛けに拳を叩きつけた。

 その破壊力のある音に家臣達はますます怯えていた。

 突然眼帯オークも同様で、彼の脳裏に死んだ母親が手招きしている光景が浮かんでいた。

「……お前は魔王城ここを出る前、なんて言った?

 あんな村10分で片付けるとか言っていたな……どれくらい経った?」

「い、一日です……」

「一日と十三時間だ。ずいぶん長い10分だぁ? えぇ?」

 バレーシアは肘掛けの先端をギリギリと掴みながら眼帯オークを睨んでいた。

 彼は勇気を振り絞って、再度訴えた。

「ですから! 村娘が魔法を……」

「黙れぇえええええ!!!」

 ついに魔王の堪忍袋の緒が切れ、彼女の指先からいかずちが放たれた。

「ブヒャアアアアアア!!!!」

 それは眼帯オークを感電させるには十分過ぎるくらい威力があり、情けない悲鳴を上げた後、こんがりジューシな焼豚みたいになった。

 家臣達は眼帯オークの香ばしい匂いなんか気にならないくらい震えていた。

 それは衛兵も同様だった。

 バレーシアは魔法を放った指先を震わせながら言った。

「あの村はどこにでもある雑魚な村なんだよ。だからこそ、最後に取っておいたんだ。

 あの村を潰せば、私の念願だった大陸統一が果たせるのに……なぜそんなに手間取っているんだ!

 なぜ敗走なんかする?!

 ザコな村なのに……雑魚雑魚ザコザコザコな村にぃいいい!!!!」

 バレーシアは怒りのあまり手当たり次第に魔法を放っていた。

 稲妻は大暴れして、窓ガラスを割ったり、シャンデリアを落としたり、家臣に攻撃したりしてやりたい放題な事をしていた。

「全く同感ですな」

 すると、このおぞましい事態に何とも思っていない声が響いた。

 これに魔王は攻撃を止めて、声のした方を見た。

 黒いローブを被っていて、顔は見えなかった。

「お前は……ブボボボー!」

 魔王が名を呼ぶと、黒いローブはフードを脱いで顔が露わになった。

 真っ赤なオークだった。

「魔王八天王である私が……暇つぶしにザコ村を蹴散らしてやろうと思います」

 この言葉にバレーシアの顔が明るくなった。

「本当か?! 助かるぞ。あらゆる国を滅ぼした魔王軍がザコ村に手間取っているなんて噂が広まったら私の名誉が傷ついてしまうからな……頼むぞ」

「もちろんです」

 ブボボボーは何もない所から血で塗られたような棍棒を出現させ手に取った。

「五分……いや、三秒で決着をつけます」

 ブボボボーはそういうと、姿を消していった。

「フフフ……アハハハ……アハハハハハハ!!!」

 赤いオークによって村人達が恐怖のドン底にいる光景が思い浮かんでいたのだろう、魔王バレーシアは上機嫌に高笑いすると玉座から降りた。

「これで大陸統一は間違いない……あむっ!」

こんがり焼けた眼帯オークの胴体を一口かじった。

 家臣達は魔王の機嫌が戻った事に安堵していた。


◎王子様sideストーリー

「ぬわぁぁにぃぃぃ? 小娘がオークの大群を壊滅させたぁあああ?!」

 マルゲリータ王国のマリトーツォ国王は、息子であるマルチーズ王子の話に耳を疑っていた。

「それは本当なのか? 夢でも見たんじゃないのか?」

 マリトーツォは天狗みたいに長い鼻を触りながら聞いた。

「父上、本当です」

 マルチーズ王子は跪きながら答えた。

「私はこの眼で見ました。おかしな呪文を唱えて、何十体もいるオーク達を笑かし、笑い死にさせている所を」

 彼がそう言うと、マリトーツォは「うーん、にわかに信じがたい」と呟きながらハゲた頭を触った。

「ところで、その村人はどういう人なんだ?」

「ごく普通の村娘です。僕はミノタウロスに襲われている所を助けてもらいました。

 助けてくれたお礼にその子に求婚しましたが、親友と離れたくないという理由で断られてしまいました」

「うーん、ずいぶん変わった子だな。王子と結婚できたら何不自由ない暮らしが約束されるのに……」

「えぇ、村の人達も大歓迎といった様子でした」

「あの村と仲良くなれば、花嫁の故郷という事で好きに出入りする事ができる」

「その隙に地下にある資源を手に入れて、僕らは大金持ち」

「空っぽになるまで掘ったら、花嫁は適当な理由をつけさせて離婚」

「金持ちをアピールさせて、憧れの爆乳お姫様を僕のものに……」

「俺は前から気になっていたロリ巨乳王妃をおきさきに……」

 汚い欲望まみれの親子はヨダレを垂らしながら妄想を存分に楽しんだ後、溜め息をついた。

「もしお前の話が本当ならそう簡単に手に入らないかもしれないぞ」

「そんな……ペタパイ村娘では満足できませんよ」

 マルチーズ王子はあぐらをかいて、膨れっ面をしていた。

 すると、国王は「しかし! 手はあるぞ!」と指を鳴らした。

 これに王子は「本当ですか?!」と立ち上がった。

「もちろんだ! 付いてこい!」

 国王は玉座から降りると、ビール腹を揺らしながら歩き出した。


 親子は不気味な地下室の階段を降りていった。

「父上、私をどこにお連れするつもりなんですか?」

「ハッハッハッ! そんなに怖がる事はない……ほれ、着いたぞ」

 国王は頑丈な鉄の扉をこれまた重そうな鍵を使って開けた。

 ギィと重々しくドアが開かれる。

 すると、魔法がかかったみたいに勝手に灯りが付いた。

「うわああああ!!!」

 王子が叫ぶのも無理はない。

 壁一面に人が並んでいたからだ。

 容姿は男や女性、中には獣の耳が付いていたりと様々だったが、どれも眠っているかのように目をつむっていた。

「ち、父上……ここは?」

 王子は恐る恐る尋ねると、マリトーツォは「お前は今日から人形遣いパペットマスターだ」と肩を叩いた。

「ぱぺ……ぱぺっとますた……? 何ですかそれは?」

「俺の父……お前の祖父が偉大なる発明家だったのは知っているだろう?」

「えぇ、もちろんです」

「父は発明家でもあり偉大な軍の指導者でもあった。この人形達を駆使して、とある国を滅ぼしたという話を聞いた」

 国王の話に王子はハッと何かに気づいた顔をした。

「もしかして、これは兵器ですか?!」

「あぁ、そうだ」

 マリトーツォはそう言うと、本棚に向かっていた。

 王子も付いていく。

 国王は本を指差して言った。

「これがその人形達を操る方法が記されている……俺は頭が悪くて呪文を覚えられなかったが、お前だったらできるだろう」

「できるだろうって……これを全部ですか?」

 王子は本棚にしまわれた数の多さに戸惑っていた。

 マリトーツォはポンと肩を叩くと、「爆乳お姫様と寝たいんだろ?」と囁いた。

 これに王子は瞬時に奮起し、「やります! 何がなんでも暗記してみせます! いくぞ! うぉおおおお!!!」と早速暗記に取り掛かっていた。

「頼んだぞ。息子よ……」

 国王は彼に野望が果たせるように祈りながら地下室を去っていった。


↓次回予告

モプミ、大ピンチ?!

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