第34話 会計課(1)

「申し訳ない。妻の具合がまだよくないようだから、謝罪は後日でもいいだろうか」


 リチャード様が心底申し訳なさそうに謝罪の言葉をくれる。


 あんな不味そうな薬を一気飲みしたのだ、何度も口をゆすいで顔も洗って入浴もしたいだろうし、ゆっくり休みたいだろう。

 朝からの騒ぎで疲労困憊しているにちがいない。

 だから、その提案を受け入れることにした。


 夫である第一王子が、自分に代わってモブに頭を下げている。

 エミリア妃はその光景を目の当たりにしているだけで、自分の犯した罪の大きさを思い知っているはずだ。


 だからといって、これで許すほどわたしはお人好しではない。

 畑の弁償はきっちりしてもらうつもりだ。



 というわけで早速、被害額と慰謝料の概算を出してもらうことになった。

 テリーさんが文官を連れてくるのをシリアン様とともに王城内の応接室で待つことになったのだが――。


 わたしは、朝からの衝撃的な出来事の数々のせいでうっかり忘れていたのだ。


 自分の父親が王城勤めの文官であること。そして、会計担当であるということを。


 ガチャリとドアが開く。

「失礼します」

 テリーさんの後ろについて挨拶しながら入ってきた男性と目が合ったとき、びっくり仰天して取り繕う余裕もなく叫んでしまった。


「お父様!」


「お、おまえ……なんでここに!?」


 そんなわたしたち親子を、シリアン様とテリーさんがきょとんとした顔で見ていたのだった。


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