第30話 解毒剤(1)

 集めたリスのフンを持って薬屋に急行し、ラミに事情をかいつまんで説明して解毒剤を作ってもらった。


 王城へ向かう馬車の中で、引っかかっていたことを思い切って聞いてみる。

「シリアン様が王室を離脱すればこのような嫌がらせはもう起こらないと考えていいんでしょうか?」


 先日カフェでシリアン様が「実は……」と話そうとしてテリーさんに止められていたあの話題だ。

 口約束ではあるけれどわたしとシリアン様は結婚を約束した仲なのだし、しかも畑を荒らされた被害者でもあるのだから、教えてもらってもいいわよね?


 シリアン様はテリーさんと目くばせし合って小さく頷くと、静かに語り始めた。

「これまでの、私の命にかかわるような不運な出来事はすべて、リチャードお兄様の差し金なんだ」


 リチャード様とは第一王子のことだ。

 腹違いの兄に命を狙われているってこと!?


「実はね、あれは茶番なんだよ。兄が差し向けた仕掛け人たちは私を殺そうとするフリをして、私は命を落としそうになるフリをしていたんだ。と言ってもね、古井戸に突き落とされた時と、崖から海に転落した時は、本当に死ぬかもしれないと思ったけどね、あははっ」


 いやいや、それ笑い事ではないですよ!


 ふたりの異母兄たちは、幼いシリアン様をとても可愛がってくれていたらしい。

 そりゃそうだ、この人の幼少期はさぞや天使だったに違いない。


 しかしそれを王妃様が良しとせず、その空気を敏感に察知していた兄たちはある日を境にわざとシリアン様に背を向けるようになったのだという。


 長兄のリチャード様は母である王妃様にシリアン様の暗殺計画をほのめかすようなことを耳打ちし、それを実行していた。

 しかしその実態は、情報がシリアン様側へ秘密裏に筒抜けになっていた。

 古井戸に落ちたときには長いロープを持った屈強な男が通りかかり事なきを得たり、海に落ちた時にはすぐ近くに素潜り漁師がいてすぐに救助されたりという具合に、常に不運と強運がセットになっているらしい。


 次兄のルーク様は、目も合わさなければ口も一切きかない仲だと噂されている。

 実際に公式行事でも決してシリアン様の隣には立とうともせず、シリアン様が挨拶をしても完全無視なのだという。

 しかし本当は、側近同士を通じて投資先のアドバイスなど、主に財テク関係の世話をこっそり焼いてくれているんだとか。


 こうしてふたりの兄たちは、弟を冷遇するようなフリをして無事に王室を離脱できるように性格のキツい王妃様からシリアン様を守り続けてくれているらしい。


「ということは、あの夜会でのボヤ騒ぎや今回の畑も、リチャード様が仕掛けた茶番というわけですか?」


 茶番にしては随分と派手にやらかしてくれた気がするのだけど?


「それがどうも違うんだ……」

 シリアン様が口ごもって、顔を曇らせた。




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