第22話 残念王子の金銭感覚(テリー視点)

「今日はサクラとの初デート記念日だな! 日付をメモして記録しておこう」


 シリアン様が満足げに笑って浮かれている。


 やたらと記念日を作りたがるのは乙女の証拠だ。

 男はどちらかというと記念日を忘れがちな生き物だから、そのことで女性に叱られることも多い。

 その点シリアン様はよい夫になるかもしれないが「初デート記念日」って必要か?


 次はどこのカフェでデートしようかと、また乙女のようなことを言っている我が主をため息交じりに窘めた。

「浪費家だと思われるのは得策ではありません」


「え?」

 シリアン様の笑顔が凍り付く。


「モブ家は質素倹約を美徳とする家門のようです。金銭感覚のズレは後々、夫婦間に大きな溝を作ることにつながり兼ねません」


「夫の浪費癖に愛想をつかして離婚……ダメだ! 絶対にダメだっ!」


 どうしようとオロオロし始めたシリアン様に、改めて問う。

「質素倹約を心がけて、慎ましく実直に、サクラ様のように日々畑仕事に精を出して暮らしていく覚悟がおありですか?」


「もちろんだ! 畑仕事は楽しいし、サクラの手助けになるのなら喜んで土まみれになろうじゃないか。金遣いはメリハリを付ければいいんだろう? 普段は質素倹約を心がけるがサクラの手に塗る軟膏に金をかけることは譲れない。年に一度は家族で旅行もしたいな。家族を大事にしたい。ところで、サクラの母親は継母ではないんだろうか?」


 この人まだそんなこと言っているのか。

「それはご自身でサクラ様にご確認ください。弟さんたちとの関係も良好のようですし、少なくとも親に虐げられているような雰囲気は微塵も感じませんが」


 そうだよな、とシリアン様は頷いた。

「とりあえず私が浪費家ではないと証明するために、今後のライフプランとキャッシュフローを可視化してサクラに提示しよう。うん、そうしよう」


 なるほど、そう来たか。

 若干ズレている気はするけれど、楽しそうだから良しとしよう。


 書類を広げ始めたシリアン様は、これまで見たことがないほどに生き生きとしていた。


 しかし半刻後。

「う~ん……」

 シリアン様が頭を抱えている。


「どうなさいました?」


「調べてみたんだが、学校の費用って高いんだな。子供ひとり育て上げるのに一体どれぐらい金がかかるんだろう? 計画的に作らないと、すぐに支度金と持参金を食いつぶして年金では間に合わなくなるかもしれない」


 そのことに気づいただけでもご立派です。

「モブ家も今年、弟さんたちが同時に学校に入学されたそうなので、サクラ様の頑ななまでの質素倹約ぶりが頷けますよね」


「子供は最低でも4人と思っていたが、上限4人にプランを変更したほうがいいかもな」


 子供の人数は夫婦で話し合った方がいいということと、授かりものなので何人と決めないほうがいいと諭した方がいいだろうか?


 楽しそうに試行錯誤しているシリアン様が幸せそうだったため、そっとしておくことにした。


 そんな空回りが続く我が主だったが、ついにサクラ様を「落としたな」と思う瞬間が訪れたのだった。

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