第14話 あきらめていただきたいんですが!(1)

「腕を振り回すだけじゃなくて、もっと腰からです。腰を入れてっ!」


 シリアン様に鍬を持たせ、畑の土を耕してもらっている。

 フードと上着を脱ぎシャツの袖をまくって鍬を振っている姿は、思いのほか精悍だ。


 頼みもしていないのにテリーさんまで一緒になって鍬を振っている。

 なんて献身的な側近なんだろうか。


「これはいい鍛錬になりますね」

「そうだね」

 額の汗をぬぐいながら爽やかに笑う二人……いや、こんな姿を期待していたわけではない。

 

 こんなことやってられるか。無礼者っ!!っていうのが欲しかったんですが。

 若い男性の体力を舐めていたわ。


 カボチャの収穫を終えた畝を耕して堆肥も混ぜ込んだ。

 母とふたりがかりで3日かけてやろうと思っていた作業が午前中だけで終わってしまった。


 それはとても助かったしありがたいんだけれども、これは王室のやんごとない方がするような作業ではない。

「ありがとうございました。大変助かりました。ではこれでお引き取りください」


 お礼として立派なカボチャをひとつシリアン様に手渡す。


 この重労働の対価がこれか!と思ってもらっても、塩対応かよっ!と呆れられてもかまわない。

 むしろ呆れて欲しい。


 シリアン様はずっしり重たいカボチャをじっと見つめた後、顔を上げて甘く微笑んだ。

「つまり今宵このカボチャに乗ってきみを訪問すればいいんだな?」


 この人は、なにを言っているんだろうか。

「違います! 意味がさっぱりわかりません。そのカボチャは召し上がってください」


 シリアン様の肩越しに見えるテリーが頭を抱えている様子から察するに、また残念発言だということだけはわかった。


「本日はここまでにしておきましょう」

 テリーさんの耳打ちにシリアン様は渋々頷いた。


「これで継母には叱られずに済みそうか? また会おう」


 継母とは誰のことだろう。

 結局彼らがなにをしに来たのかすらよくわからない。


 テリーさんに引きずられるように帰っていくシリアン様に深々と頭を下げてお見送りした。



 翌朝。

 シリアン様と一緒に畑仕事をした昨日の奇妙な出来事は、もしかすると夢だったのかもしれないと考えながら朝食の支度をした。


 カボチャの種入りパンとカボチャスープを前に、弟たちがうえーっという顔をする。

「またカボチャ?」

「もう飽きたー」


 双子の弟たちは学校に通うようになって急に生意気になってきた。

「カボチャに謝りなさい。罰として畑仕事を手伝ってもらうからねっ」


 今日は学校が休みだから、うるさい弟たちを連れ出して母にゆっくりしてもらいたい。

 畑があるのは城下町の端っこで居住区から商業区を抜けて歩いていくため、往復だけでもかなりの運動になる。

 とにかく暇を持て余している弟たちを疲れさせないことには、家の中がうるさくてかなわないのだ。


 えーっ!と抗議の声をあげる弟たちを無視して、カボチャを薄くスライスする。

 それを素揚げにして塩を振っただけのシンプルおやつ「カボチャ揚げ」を手早く作り、まだブーブー言い続ける弟たちを連れて畑に出発した。


 そこまではよかった。

 まさか、いるとは……。


 畑の真ん中にシリアン様とテリーさんが立っていた。


 

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