第13話 残念王子の執念(テリー視点)(2)
長かった。
店主からは「あなた方、本当に貴族なんでしょうね?」と胡散臭そうな目で見られ、迷惑料として金貨を渡さなければならなかった。
おまけに側近定例会では「シリアン様は毎朝どこへお出かけされているのか」と問いただされて散々だった。
側近たちからの質問には、半分正直に答えた。
どうせごまかしたって筒抜けだろう。
「先日の夜会で見初めたご令嬢を口説いているところです。そっと見守ってください。くれぐれも市民を巻き込むボヤ騒ぎなど起こさぬようお願いいたします」
抜かりなく再び釘を刺しておいた。
しかし彼女と再会してみてわかったことは、シリアン様から聞いていた話とは随分違うということだった。
相思相愛なのかと思っていたら……彼女は明らかに迷惑そうにしているんだが!?
夜会で見初めたご令嬢と運命の再会を果たし、二人は結婚して幸せになりました。めでたしめでたし。
そうなるんじゃないかと考えていた俺も、シリアン様に影響されていつの間にか乙女になっていたようだ。
夜会は、まだ婚約が成立していないと思われる貴族のご令嬢に広く招待状を出した。
しかし参加の返事をもらえたのはわずかで、大半は何かしらの理由をつけて不参加だった。
中には駆け込みで婚約したご令嬢もいると聞いている。
これでは夜会が開催できないと慌てた陛下の側近が、代役でもいいから人数を揃えろと各方面に圧力をかけてどうにかかき集めたらしい。
きっとこの彼女も、頭数を揃えるために召集された一人だったのだろう。
そんな彼女が困惑しながら何度も「困ります」「違います」と言っているのに、シリアン様はおかまいなしに「私のシンデレラ!」と言ってグイグイ迫っていく。
これではダメだ。
我が主の恋愛経験の無さが痛すぎる。
そもそも『シンデレラ』という物語の内容だって知らないだろうと思われる彼女からしてみれば「シンデレラって誰よ!」だ。
「ほかの女性の名前を呼んではなりません」
見兼ねてそっと耳打ちすると、シリアン様は小さく頷いた。
「きみはサクラ・デ・モブだろう?」
夜会の日に聞き出したというその耳慣れない名を、シリアン様が確認するように問いかける。
すると彼女は何のためらいもなくあっさり「その通りです」と認めた。
偽名ではないかと思っていたが、どうやら本名のようだ。
もう一度『貴族名鑑』を目を皿のようにして確認しなければならないな……。
その後もシリアン様は、公務などない暇人だと公表したり、自分の付きまとい行為は理にかなっていると開き直ったりと、じゃんじゃか墓穴を掘って好感度を下げ続けた。
我が主に代わり表情だけで謝罪の意を伝えると、彼女の方も「あなたこそお気の毒に」とでも言いたげな顔で応えてくれたのだった。
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