第12話 残念王子の執念(テリー視点)(1)
この踵からどこの職人がこの靴を作ったか探せだと?
シリアン様はすっかり『シンデレラ』という物語の王子様気取りで浮かれている。
王都の靴屋から順番に当たっていくしかないだろう。
折れた踵を預かり、それを部下に渡して探すよう指示を出した。
こちらはシンデレラ探しよりも大事な仕事がある。
夜会でのボヤ騒ぎの件だ。
王室に仕える側近や付き人たちが集う朝の定例会で、参加した面々を睨みつけながら釘を刺しておいた。
「シリアン様の命を狙うのはかまいませんが、関係のない人間を巻き込むような真似はやめていただきたい」
「まるであれが放火だったと決めつけているような言い方だね。設備の老朽化が原因だと聞いているけど?」
ふんっと鼻を鳴らしてそう言ったのは、第一王子・リチャード様の側近だ。
周囲も彼の発言に頷いている。
「白々しい態度はおやめください。ひとつ種明かしをしますと、あの夜会はすべて陛下直々のご意向で催されたものです。万が一、犠牲者が出るような惨事になっていた場合、泥をかぶるのは陛下だったのですよ? 心当たりのある方は、しばらくおとなしくしておいたほうがいいでしょうね」
その場が静まり返る。
一瞬顔色を変えた人物が数名いるが、まあいい。当分無茶なことはしないだろう。
主が道を踏み外しそうになった時は、それを正すのも側近の仕事だと気づいてもらいたい。
第三王子の側近だなんてハズレくじを引いたな――よく言われるが、別にそのようには考えていない。
配属された先でその主に忠誠を誓い、仕事の補佐をし、緊急事態には自らの命さえも顧みずに主の盾となる。
そういう仕事を選び、初めて仕えた主がたまたまシリアン様だっただけだ。
いずれシリアン様がめでたく王室を離脱する日が来たら、俺は任を解かれてまた別の主の元で働くことになるだろう。
今はただ全力でシリアン様の命を守り、幸せになってくれることを願っている。
そんなシリアン様に朗報がもたらされた。
赤い靴を作った職人が見つかったのだ。
王都の商業区に店を連ねる靴店の職人だった。
早速店主に確認したところ、買い求めたのは若い女性で、名前はわからないが午前中に店の前を歩く姿を見かけたことがあるとのことだった。
つまり王都が生活圏内であるということだ。もしかすると靴の修理に訪れるかもしれないと踏んで、なんとシリアン様自らが靴屋に張り込んだのだ。
店主には身分を伏せて、高位貴族のご令息がこの靴の持ち主を探していると説明した。
こういう時は、シリアン様の顔があまり知られていないのが幸いする。
シリアン様は「麗しい顔」として有名だが、実物を間近で見たことのある国民はほとんどいない。
念のためフードを目深にかぶり、来店する女性客をこっそり窺うこと7日目にしてようやくターゲットが現れた。
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