第11話 モブの心得(2)

 どうすればいいんだろうか。

 シリアン様とその側近――テリーさんというらしい――が、わたしの後ろをついてくる。


 今日この後の予定はと聞かれ、農作業をしなくてはならないのでと正直に答えた。

 あなた方が想像していたような「貴族のご令嬢」ではないのだとわからせるためだ。


 それなのにシリアン様は大きく頷いたのだ。

「それは大変だな。その仕事を滞りなく完遂しなければ叱られてしまうのだろう?」


 意味がわからない。

 農作業をサボればそのしわ寄せで後から大変になることは間違いないけれど、だからといって誰かに叱責されるようなことでもない。


 では馬車で移動しようと言われ、あまり目立つことはしたくないと断ると、

「さすがは慎ましやかな私のシンデレラ」

と甘く微笑まれて、さらに混乱した。


「あのう。何度も申し上げていますが、わたしはシンデレラではありませんからね?」


 シリアン様の発言が斜め上すぎることと、どうやらなにか大きな勘違いをされていることだけはわかった。


「もちろんわかっている。きみはサクラでモブだろう?」


「ええ、その通りです」


 わかってるじゃないの!

 じゃあ、一体なんなの?


 ここからはやけくそで、わざと早足で歩いた。

 

 普段から日に当たっていなさそうな白い肌の王子様だ、すぐに音を上げて馬車に乗りたいだとか、どこまで歩かせる気だとか言って怒りだすに違いない。


 それなのに。


「きみはすごいな。あの時も思ったんだ、足腰が丈夫そうな健康な子だなって」

 はぁはぁと息を切らしながらもシリアン様はしっかりとした足取りでついてくる。


 褒められているんだろうか。

 無視してひたすら畑に向かって足を動かした。


「ここがわたしの仕事場です。趣味や道楽でやっているわけではなく、生活のためにやっています。殿下がなにを勘違いされているのか到底理解できませんが、わたしは貴族とは名ばかりのただの庶民です。ご公務でお忙しいかと思いますので、どうかもうお引き取りください」


 結局畑までついてきたシリアン様を突き放そうと思ったけれど、向こうはそれですごすご引き下がるような性格ではなかった。


「公務? ないよ。強いて言うなら、早く結婚して王室を離脱するのが私の務めだ。だからこうしてきみを追いかけているんだよ。理にかなっているだろう?」


「かなっていません! わたしはモブです。シリアン殿下と関わり合いになるのは分不相応だと言っているんです!」


 助けを求めてシリアン様の後ろに控えるテリーさんに目を遣れば、彼は申し訳なさそうに眉毛を八の字に下げている。


 ああ、残念王子。

 やはりあなたは性格も残念なのね。

 テリーさんも苦労しているに違いないわ。


 こうなったら音を上げるまで畑仕事を手伝ってもらおうじゃないの。

 シリアン様、覚悟なさいませっ!





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