10ネコ ネコと最後
(合宿の夜。同じ部屋で夕食)
「この貝、めっちゃおいしい♡」
「うん。分かる」
「あっ。この味付け好きかも」
「マジ?」
(箸を伸ばす俺たち)
「おいしいものを食べると幸せだよね~。はい、あーん」
(ルナは俺に刺身の一切れを差し出してくる)
(パクッと食べると、カナが不快そうな顔をする)
「ちょっと、あんたたち仲良すぎじゃない♥」
(カナの声が震えている)
「もう。知らない♥」
(食べ終えた頃合い。カナは先に温泉に行ってしまう)
「わたし、ひどいことしちゃった……」
(わなわなと震えるルナ)
「謝ってくる」
(それだけを言い残し、すぐに温泉に向かうルナ)
(温泉に行くと、隣の女子風呂から声が聞こえてくる)
「ごめんなさい。わたし、無神経なことした」
「それは……お互い様ね♥ カナもキス、しようとした♥」
「それでも、だよ……!」
「なら、カナに譲りなさいよ♥」
「……それは誰のため?」
(カナの息を呑む音)
「わたしは友人も、恋人もほしい。わがままなんだ。でも彼はきっとわたしを……」
「分かったわ♥ 分かっていたの♡ 確かにあなたたちはステキなカップルよ♡」
「ありがとう……」
(深く頷くような声音)
「温泉、気持ちいいわね♡」
「そうだね」
「それにしても、カナはいいものをお持ちで」
「ちょっと♡ ダメ♡ あぁぁぁっぁ――ん♡」
「もう。カナってば」
(温泉から上がり、俺は自分の部屋へ)
(にゃー)
(モカもやってきた)
「お、お邪魔します……」
(怖ず怖ずとやってくるルナ)
「モカだめだよ。ここにきちゃ」
(ルナはメッとする)
「うん。わたしも君と遊びたいけど」
(チラチラと俺を見やるルナ)
(温泉あとだからか、白い肌に薄ピンク色がさしている)
「ちょっとだけ、話を聞いてもらってもいい?」
(ルナは確認するように訊ねる)
「ダメって言っても、勝手にしゃべるね。独り言だよ」
「わたし、ここに受験したとき、すごく緊張していて、試験のとき吐いたの」
(淡々と過去を語るルナ)
「でも君は助けてくれた。最後まで試験を受けさせてもらえた。だから――ありがとう――とてもとてもありがとう」
「好きです」
「付き合ってください」
(たっぷりと時間をおいての言葉)
(その重みを感じ取った)
「わたし、君のことが好き」
「ううん。大好き」
「君を知っていくたび、どんどん好きになった」
「もっと一緒にいたい。もっとそばにいたい。ずっと仲良しでありたい」
「お婆ちゃん、お爺ちゃんになっても」
「だから、わたしと一緒に添い遂げてください」
(にゃーん)
(答えは決まっていた)
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