第4話 驚きの余り


 もしかして俺をつけてきたのか?! 

 いや、何のためにだよ。


 そう思い、ぶんぶんと首を横に振る。



 ——「わたしは、あなたのことが好きなんです! だから助けたんです!」


 もしかして本気……だったり!? 


 い、いや。やっぱそれは……さすがに無いよ、な?


 あぁもうっ! 

 気になったもんはしょうがないっ。

 俺はふんすと鼻息荒く、彼女の後をこっそりつける事を決意する。


 尾行なんてほどのものでもない。けど慣れない事をするとやたら緊張するものだなと改めて思った。

 幸いにも彼女が後ろを振り向く事は無く、脚が思う様に動かない俺でもスムースに追いかける事が出来た。


 そして二分程歩いた後、彼女は最寄のスーパーに入ってゆく。

 そこは元々俺が向かおうとしていた場所だった。


 なんでスーパーに……?


 もし俺の後をつけてきたのなら、わざわざスーパーになんか寄るだろうか。


 俺は痛む脚を気にしながらも積まれた買い物カゴや陳列棚の物陰に隠れつつ、彼女の観察を続けてゆく。


 そんな中、彼女は迷う素振り一つ見せず、やたら手慣れた感じでポイポイと食材を買い物カゴに放り込んでいった。

 朝食サラダセット。ピーマン3個。タケノコ1袋。牛肉……ちょっと見えにくいけど多分200gくらいか。

 

 見失わない様に注意しながら俺もカレーの食材を買い物カゴに放り込みつつ、彼女の後をつける。 


 彼女はその後、お菓子の陳列棚を眺めて……スルーし、パンコーナーで食パンを手に取ってカゴに入れた。やっぱ遠くて何枚切りかまでは分からない。

 そして、菓子パンを手に持ち……んん~~~断念っ。って感じか。


 もしかして夕食は……青椒肉絲チンジャオロースー……なのか?

 そして、食パンとサラダセットは明日以降の朝食のために?


 って、そうじゃなくて。


 完全に買い物してるよな……夕飯の。


 なんでだ? 普通は住んでるとこの最寄りのスーパーで買うはずだろ。

 

 なんなんだよ。全然分かんねえ。


 さすがに同じタイミングでレジに並ぶ訳にもゆかず、少し間を置いてから俺も最奥のレジに並びながら様子を窺うことにする。

 彼女はマイバッグを広げると、大きなサイズのものから順に詰めてゆく。そして程なくしてゆっくりと店を後にした。


 急ごう!

 俺は会計を済ませるとマイバッグへ乱暴に食材を放り込み、店を飛び出した。



 「(あれ? いない……?)」


 きょろきょろと首を左右に振って辺りを確認するも彼女の姿は見当たらない。

 念のため上と下も見ておくか。空、電柱、屋根……。当然地面にもいない。


 そこまでタイムラグは無かったはずなのに。もしかして気付かれた!?


 だったらどこかに隠れながら俺のことを見てるのかも知れないが……。

 どう考えてもこの足じゃ、探す事なんて出来っこ無さそうだ。


 はぁ、しょうがない。もう諦めるか。


 小さく溜息をつき、俺は玉ねぎやジャガイモでズシッと重みの出たマイバッグを肩にぐっと掛け直す。


 今日はいったいなんて日だ。


 全くそんなテンションでも無かったが、どこかで聞いたギャグが頭に浮かんでくる。

 やっぱり笑えない。


 念のため、帰り道中でも目を光らせてみたものの、やはり彼女の姿を捉える事は出来なかった。


 彼女の事を考え過ぎたせいだろうか、イチゴ柄の下着映像が脳内で鮮明に浮かんでくる。

 胸も結構大きかったよな。


 って違うだろ。 俺は想像を掻き消すため頭を両手でわしゃわしゃとする。


 でも本気で可愛かったよなぁ……。


 と、そんな事を考えながら何の気なしにマンションへ戻る最後の角を曲がった時だった。

 

「っっっ!!」


 俺は一瞬声を出せず、呼吸が止まってしまう。


 というのも……、角を曲がった直後の場所で彼女が立っていたからだ。

 

 対する俺は驚きの余りマイバッグをどさっと落としてしまい、


 目の前ではジャガイモがぽてぽてと転がっていた。

 


 



 

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