第3話 地下の軍勢(前編)


「こちらET‐12。現在地下800m付近を探査中。依然として痕跡は発見できない。どうぞ。」


『こちら探査本部。無駄に広くて入り組んでる迷路さんだもんな、こっちも長期戦を覚悟済み。他チームとの共有もしておきたい。早めに切り上げてくれ。』


「OK、と言ってもこのままじゃ給料泥棒ってどやされちまう。せめてこの通路だけでも調べ切る。」


『了解だ、幸運を祈らせてもらうよ。』



地下奥深くに出来上がった、謎のトンネル群。


初めての第8世代として出現したドリルを持つ怪獣。そして熱線を吐く怪獣が同じ地中から出現したことから、ドローンによる地下探査を実行。これにより政府は地下800m~1000mの地点で巨大な地下迷路が作成されていることを発見した。これまでに似たような事例は過去にもあったが、この深さと規模は類を見ない。そのため政府は探査部隊を送り込むことを決定した。


比較的市街地に近い熱線怪獣が出現した穴は部分的な埋め立てを行い、ドリルを持つ怪獣の出現地であり現HBO基地が傍にある地点に探査本部を設置。彼らのために用意されたのは、国が保有していた探査用特機であるHBO社製第四世代特機『竜田』24機。


そのすべてを初日からを導入し、探索を進めている様だが……。ドローン調査時点では発見できなかった横穴を多数発見してしまったせいか、調査は依然として進展を見せていない。



(ま。気負い過ぎずのんびりやっていくのが吉、ってね。勤勉アピールもできれば満点ってやつよ。)



少し不真面目な思考を浮かべるのは、そんな探査用特機に乗る一人の男。彼が操る特機は、戦闘用で一人乗りの『トヌ』や『金剛零型』とは違う三人乗りのものになっている。発見した痕跡の分析や、調査のために自身の主人を増やした鉄の巨人は、機械で掘削されたかの様な地中を8本の脚でゆっくりと歩いていく。



「にしても、どこからどう見ても自然で出来た物ではないよな。特機が楽に行き来できるような穴とか、そうそう出来ないだろうし……、ここがほんとに地球なのか不安になってくるよ。」


「確かに別世界みたいですよね……。にしても、ドリルの奴。アレで掘ったってのは解るんですけど、なんでこんあでっかいの彫ったんでしょ?」


「上は巣でもあるんじゃねぇか、って言ってたけどな。……あとドルモルだよ“ドルモル”。」



国が正式に発表した名前を教えてやる、搭乗員の一人。


怪獣は発生から80年近く立つ存在ではあるが、依然としてその生態に対して不明点が多い。突如として市街地に出現することもあるため転移能力などを保有しているという説もあるが、そうであれば追い込まれた時に脱出しない理由が判らない。


人類がまだ理解できていない様な存在が侵略のため送り込んでいるという説、一方通行説などもあるが少々オカルト染みており、また空中や海中、地中などにも出現することから、その“出所”については全く分かっていないというのが現状だ。



(まぁだからこそ俺らがその怪獣が彫った穴を探索してるわけだが……。)



特機のライトによって幾分か明るくなった暗闇。注意深く進みながら、そんなことを考える搭乗員。話題は自然と特徴的な怪獣の名前、第8世代怪獣“ドルモル”へと移っていく。



「そうだったそうだった。……かなり安直だよな。もう少し何とかならねぇのかね?」


「まぁそのまま“ドリルモグラ”に成らなかっただけ良いんじゃね? 日本語でそのままするよりも、英語で繋げただけまだマシだよ。あのビームさんも“レイスフィア”に成ったし。」



怪獣たちは日々大量の存在が出現しているのだが、もちろん過去に出現したものと同種の存在が現れることもある。故に情報の共有や、整理のため各種ごとに名付けが行われている。


最初期は“第3号”などと数字を当てていたようだが、世代を重ねより種類が増加したことや他国との共同作戦時に怪獣の番号が違うせいで部隊が混乱してしまったという事象が発生。故にそれ以降、新種発生時はその国の担当者が解りやすく適切な名付けるという条約が結ばれている。


けれどネーミングセンスを期待できない者が担当になることもあるようで……、現在の担当者は彼らにとって比較的外れ、に位置するようだった。



「あー、そう言えばさ。実際他の場所で第8世代とか出たらどうするんだろな。資料がこっちにも回って来てたけど、一番防御力の高い『生駒』でもあのドリル、微妙なんだろ?」


「らしいな。上が今のHBOから色々技術提供受けてるとは聞いたが、それが反映されるのはもっと後だろうし。実際世界でまともに第8世代とやり合えるのって、あのお嬢様だけなんじゃないか?」


「やっぱりそうですよねー。」



HBOが誇る第五世代戦闘用特機『生駒』。単純な装甲の厚さで言えば接近戦を重視したアメリカ第五世代機『BrownBomber』などの方が勝るが、総合的な防御力は第五世代の初期に作られたのにも関わらず、依然と『生駒』がトップに位置している。しかしその『生駒』をもってしても“ドルモル”が所有していた巨大なドリルを完全に耐えきることが出来ないという試算が出ていた。まだ“レイスフィア”の熱線に関しては調査中のようだが、約十万度を超える熱線となれば同様に難しいとしか言えないだろう。


さらに第五世代の平均出力は、『金剛零型』の約10分の1。攻撃力においても防御力においても大幅に劣っており、第8世代怪獣の対処は集団でおこなうことが現在推奨されている。



「遅延戦闘で頑張って金剛とやらが来るまで持ちこたえるか、それとも海岸線まで移動させて無理矢理ミサイルとかの物量でつぶすか。まぁ今できるのはそれぐらいだろうな。」


「なんか新型特機作ってる、なんて噂聞きましたけどいつ完成するかも解んないですしねー。」


「ま、俺ら探査乗りには関係ない話だけどな。」



違いない、なんて言いながら笑い合う三人。


その瞬間、『竜田』のセンサーが何かしらの反応を察知し、アラームを鳴らす。



「出ました。血痕です。DNA鑑定……、“ドルモル”と類似してます。どうやら奥に続いているようですね。」


「っと、痕跡か。光学迷彩起動後、ソナーで地形を把握する。その後すぐに省エネモード移行して調査するぞ。」


「あいよ、準備する。」



彼らがコックピットで操作を始めると、徐々に『竜田』の装甲が周囲の景色と一体化していく。そしてそれまで点灯されていたライトたちが消されていき、一度だけ強力な音波が、発射された。反響によって『竜田』に搭載された演算処理装置達が正確なマップを形成していき、先ほど発見した血痕が続く先には、巨大な空洞が存在していることが判明する。


高さ数百m、幅数km。人よりも何倍も大きな怪獣の巣として考えれば、最適なサイズであろう。


怪獣はその種別によってまちまちだが、光だけでなく熱にも反応する個体もいる。ライトを消し、ある程度出力を落すことで『竜田』の隠密性を出来るだけ高めた彼らは、少しでも多く情報を集めるために、前へ。



「っと、マジでこりゃ巣でもあるのかもしれねぇ。見つければ大発見だ。探査本部にすぐ連絡入れろ。地図データと血痕のデータを送った後、奥に進むぞ。後に来る討伐隊のためにも少しでも情報を集める。」


「「了解!」」








 ◇◆◇◆◇







「じいや、あちらの方々に差し入れは……。」


「すでに完了済みです。ご心配なく。」


「流石ね。」



我が社の敷地内を歩きながら、見慣れない“探査本部”を眺めます。


詳しいことはまだ“機密”ということでお聞きできていないのですが、どうやら私が以前戦った二体の怪獣。“ドルモル”と“レイスフィア”たちは地下に存在する同一の空洞から出現した可能性が高い、とのことです。故に国が探査部隊を結成し、こちらに到着。一応この地の責任者として特機の皆様が地下に潜っていく所を見送らせて頂いたのですが……。



「やはり我が社の特機は最高ですよね、ずらりと並んだ姿がとっても壮観でしたわ。」


「普段よりも口元が緩んでおられましたものね。」


「あら恥ずかし。今度から扇子でも持ってこようかしら。」



個人的な好みには成りますが、作業用や探査用と比べると、戦闘用特機の方が好みではあります。けれど探査用特機の傑作として名高い第四世代『竜田』。それもお国用にチューンナップした機体を24台も見られるとなると、話は別です。どんな場所でも踏破できるように設計されたあの多脚タイプ。アレはアレでいいものですわ……!


先日から探索部隊の方々とは、連携のため少しお話をさせて頂いております。


国からの依頼、彼らの護衛の依頼をお受けした故に、その打ち合わせを少し、ですね。彼らの護衛だけでなく、普段の通常業務。担当地区に怪獣が出現した場合はそちらに対処する必要があるため、『地下探査時に怪獣と接敵した場合』、『未撃破の怪獣の痕跡を発見した場合』は即座に現場へと急行する、といった感じですね。



(まぁ地下空洞が非常に入り組んでいるということも、地上での即応待機の理由になりますかね?)



もし可能であれば護衛役として皆様の後ろをゆっくりと追従させて頂こうかと考えていたのですが、今回派遣される特機は24機。しかも地下は非常に入り組んでおり、同時に特機同士がすれ違うことが難しい閉所になっています。けれど何を呼び出してしまうか解らない以上、振動と音を出してしまう掘削作業、スペースを作る作業もすることが出来ません。


故に私とあの子、『金剛零型』は地上でお留守番なのですが……。少々もどかしいですね。



「そう言えばお嬢様、探査部隊の皆様がご到着された際、かなり話し込んでいたようですが、何を?」


「あぁ、少々パイロットとしての知見を深めるためにお話を伺いに行ったのですが……。最終的にあの子たち、『竜田』をお褒め頂く時間になってしまったのです。少々長引いていたのは、そのせいですわね。」



先日。何かったときの戦力、そして探査本部が置かれた土地の所有者ということであちらの部隊長の方や、パイロットの方々たちと少しお話させて頂いたのですが、私の様な民間上がりのパイロットとは違い、学者様の様な面も持たれる特機乗りの方々との会話は非常に有意義な時間でした。それに、『竜田』のことを良い期待だと褒めて頂きましたしね? 口角が緩んでしまっても、致し方ないというものです。


まぁ貴族としては表情を崩し過ぎるのはあまり褒められたものではありません。……けれど私で比べ物にならない程、まつり様がハッスルしてくださってましたから。誤差です誤差。



「大変興奮なされてましたものね。『私が調整した子がいるー!』と飛び掛かろうとするところ、そんな彼女がお爺様方に羽交い締めにされて止められていたのを見た時は流石の私も目を疑いました。しかしそれでもまだ突撃しようとしていた熱意は……、とんでもないものかと。結局私も止めるために参戦致しましたし。」


「ですわね……。というかじいや、いつの間にそんな上手い声真似を?」


「執事ですので。」



二人で話しながら、より建造所の中へと入っていきます。


そんな私たちを迎えてくれるのは……、地下から地上へと出され、ほぼ修理が完了した私の相棒。第一世代特機『金剛零型』。敵の熱線によって溶かされてしまった腕も完全に元通りになっており、時間経過による不調も取り除かれた姿。まだ問題が全て消えたわけではないようですが……。心なしか私たちを見下ろしている彼の顔も、強い力が感じられます。


準備万全、といったところですか? ふふ、頼もしいですわね。



「あ、お嬢様じゃねぇですか。」


「あぁ、大宙のお爺様に、滝様。どうですかこの子は?」


「おう! 万全だ! 熱線野郎がまた来ても無傷でケロリとしてるはずだぜ!」



丁寧に返してくださる大宙のお爺様と、荒々しいながらも強い意思と共に返答してくださる滝様。何かあった時のために即応体制を整えておいて欲しい、というオーダーを無事完了できているようで、なによりです。


にしてもまぁ、ここまで長かったですわよね……。



「そもそもの合金の配合が解らん、廃熱システムは複雑怪奇、タービンなんかもう無理。我ながらよくやったもんですよ。やりがいだらけで楽しかったのは事実ですが、年の衰えを強く感じやしたね。」


「正直悔しいが、まだ原理が解ってない部分もかなりあるからな。大宙が撮ってた写真とかの資料のおかげで、何とか元通りって言っても良いレベルになったが……。こっから先は先代様の“再現”の時間だ。」


「……えぇ、皆さまなら出来ると信じております。」



現在HBOで働いてくださっている大宙のお爺様を始めとした技術者の方々は全員が大ベテラン、その経験と積み重なった知識を惜しまずに使い、『金剛零型』を何とか元に戻してくださいました。けれどその“原理”の大半を、誰も理解できていないのです。


現在この子について判明、そして完全に再現できているのは、その身に纏う装甲の“合金”レシピのみ。積み重なった謎の中でまだ推測が可能だということで、私たちの労力と資金の大半を投入した結果、何とかたどり着いた“正解”。


装甲担当の森山様から名付けの権利を頂いたため、“零型合金”と名付けさせて頂いたコレは、これまでの常識をはるかに覆すもの。一応社長として説明を聞いたのですが、専門用語が多く解らないことも多かったもので……。


『も、申し訳ございません。少々専門的過ぎて解りませんわ……。』

『おい森山ァ! もっと解り易くご説明しろや!』

『な、殴らないで滝さん……。まぁ簡単に言いますと、これまでの装甲に使っていた鋼材の完全な上位互換です。その分かなり値段も張りますが、硬度も粘度も桁違い。耐熱もコーティングの状態が良ければ10万度以上も耐えれるかと。あの熱線を耐えられた可能性が高いです。おそらく前回は経年劣化などが原因でそれが難しく、いやそもそも……。』

『だから話がなげぇんだよ森山ァ!』


とまぁ滝様に怒鳴られる森山様に教えて頂きました。……後で和菓子でも差し入れしておきましょうか。お好きなようでしたし。それと滝様は後で私と一緒にコンプラ研修ですわ。流石にちょっとあれは時代錯誤でしたからね……。覚悟しておいてくださいまし!



(謎多き、いや存在自体が謎と言っても良いのが、金剛零型。そんな子に乗ることが不安、というわけではありませんが今から約80年前にどのようにしてこの子を産み出したのか、という疑問は尽きません。)



根幹となるシステムは大半がブラックボックス化していて解読が困難、しかしながら後から付け加えられるようしてあったのか、武装やシステムなどを搭載する拡張性が多く残されているとのことです。ある程度の修理が終わったため、これからその解読や新兵装の整備を進めていくことになる、という感じですね。



「まだこう名乗るのは慣れませんが……、私も社長として! 全力でサポートしますわ~!!! ……ま、まぁかなり資金がヤバいのは変わらないんですけどね。」


「そ、そんなにですかい?」


「あ、いえ。皆様はマジで何も気にせずのびのびと全力を尽くしてくださいね? そういうのは私が何とかする案件ですので……。あ、やば。思い出したら胃が。じいや、いぐすり。」


「こちらに。」



手渡してくれた胃薬、まつり様に買って来て頂いたお徳用のモノを口に含み、一気に水で流し込みます。……ふぅ、プラシーボ効果かもしれませんがだいぶ楽になりましたわ。


えぇ、お恥ずかしいことにちょっと資金繰りが難しいのです。


第8世代怪獣の命名と共に、前回私が討伐した“レイスフィア”の報奨金も頂きました。その脅威度からか、かなりの額を頂いたため、以前泣き言を上げてしまった理由の一つである“借金”も余裕で返すことが出来ました。えぇ出来たのですが……。



(結局また足りなくなっちゃったんですよね。)



この『金剛零型』の修理と技術解明に想定以上の資金が掛かってしまいまして……。実はすでに報奨金を使い切り、もう一度借金。いえ“投資”を頂いております。けれど銀行から借りた分では正直足りず、以前お世話になったことのある貴族の方々からちょっと融資を頂いたりとかして何とかやってるのが現状、という感じですわね。


一応今回の『探査部隊の受け入れ』である程度まとまった資金が手に入りました。おかげさまで首一枚繋がっているような状態ですが……、危機的状況である事には変わりません。



(正直、報酬出るから怪獣出てくれー! と思ってしまったことも一度や二度では……。に、西崎の娘として決して許さぬことではあるのは解っているのです! で、ですが……。)



貴族の娘としてお金に困る、ということがなかったせいでしょうか。結構心に来るものがございますわ……。お兄様とかお父様とか、こういうのを抱えながらお仕事してたんですの? マジすげぇですわ……。


い、一応希望がないわけではないのです。先ほどの“零型合金”のレシピや、この子『金剛零型』のデータは順次国へと共有させていただいております。そして同時に特許申請の方も完了済です。特機の関連技術としては最低レベルの使用料しか定めておりませんが、今後徐々にお金が入ってくるはずです。それに現在行っている『金剛零型』専用の武器開発も、徐々に申請していく予定ですし……。た、たぶん、なんとかなりますわ!



(あ、使用料高くして儲けたらいいじゃん、とか無しですからね? 我が家の誇りは最後まで守り抜きませんと。人を守るために、特機はあるのです。確かに苦しいですが、お金儲けは二の次ですから。)



「……ふぅ、ようやく落ち着きましたわ。皆様申し訳ございません。さ、確か次は武器開発の方でしたわよね? 即応待機ですからこの子からあまり離れすぎたりするのもダメでしょうし……。いい機会です、ちょっと見してくださいまし。」


「お、おう。大丈夫ならいいんだが……。了解だ。まだ未完成のものばっかりだが、ぜひ見てってくれ。」



心配そうに顔を覗き込んでくれる滝様に礼を言いながら、奥に案内して頂きます。


……にしても、西崎の娘であることを知りながらこの距離の近い感じの話し方をしてくださる滝様って珍しいですわよね。じいやは少し不満なようですが、私としては全然アリですわ。この方なりの敬意と言いますか、接し方でお話してくださっているのが解りますし、ちょっと新鮮で楽しい所もございます。


とまぁそんなことを考えていれば、これまた巨大な物体たちが並ぶ区画が目の前に。


ちょうど何かの作業をしていたのか、巨大な拳の上に立っていたまつり様が、こちらに手を振って下さります。あ、降りるのはゆっくりでいいですからね、ほんとに。拳一つで家程の大きさなのですから。労災厳禁ですわ。



「お疲れ様ですお嬢様! どうです!? すっごく良い感じに仕上がってますよ!」


「こちらは?」


「接近戦で拳の消耗が激しいと見たので、そのスペアになります! 奥にもまだ1セットあるので破損を気にせず戦っていただいて大丈夫ですよ! それにそれに! 見てくださいこの手首のとこ!」



そう言いながら彼女が指さす方向を見上げてみれば……、あぁ確かに手首の外側に人一人がすっぽり入りそうな穴が開いていますね。あそこから何か発射されるので?



「はい! 零型の排気システムと冷却システムに手を加えまして、腕部から高熱蒸気を噴射できるようにしました! これまでの零型も各部位から噴射こそできましたが、こちらは“圧縮”してるので威力も温度も段違いです! 前回の様な耐熱型の怪獣にはダメージにはなりませんが、目くらましなどには十分使えます! それに、サーモグラフィ持ちの怪獣にも有効ですよ!」


「なるほど……。」



攻撃力を上げるのではなく、戦略の幅を増やす武装といった形ですわね。……ん? あぁ、こちらがマニュアル。了解しましたわ。読み込んでおきます。なるほどなるほど、使用しすぎると冷却システムに不具合が出る可能性があるため、一時間以上の連続使用は厳禁。……一時間も連続で使いますかコレ?



「あはは、一応書いとかなきゃと思いまして……。あそれとそれと! まだ試験段階ですが、いずれアレもやるつもりです! ロケットパンチ! 遠距離攻撃手段は必須ですから!」


「……まつり、確かに威力はあるかもしれねぇが拳失ってどうするんだ? 元の場所に戻ってくるならまだしも、接触時の衝撃で壊れて帰ってこない可能性が高いって何度も言ったじゃねぇか。」


「むー! お爺ちゃんのいけず! だからこそ私達エンジニアがロマンを現実に引き下ろすんですー! それに、確かに腕部とか肩部砲台付けた方が手っ取り早いかもしれませんけど! 重心や残弾の問題! それに誘爆の危険性だってあるんですよ! お嬢様だってそう思いますよね!!!」



えっ!? わ、わたくしですか? 急ですわね。


い、いや確かにロケットパンチのロマンは確かに解りますが……。細かいところは専門の方にお任せしますわ。皆様に整備し送り出された子を十全に扱うのがパイロットの使命ですもの。確かに重心バランスなど、それまでとあまり違いがない方がありがたいですが……、遠慮していただく理由にはなりません。


この子がどんな進化を遂げようとも、どんな武装を積もうとも、使いこなして見せるのがパイロットという者でしょう?



「まぁでも、やはり遠距離攻撃の手段は欲しいですわね。確かに接近戦が好ましいですが、今後飛行型の怪獣が出てこないとは限りませんし……。」



これまでの怪獣、第7世代怪獣までの飛行型は地上型と比べ装甲が薄く撃墜しやすいという特徴がありました。けれど既に怪獣は第8世代に移行しています。今はまだ出てきておりませんが、もしこれまでよりも装甲が堅く高速で空を動き回る怪獣が出てくれば……、この子は手も足も出ないでしょう。


そうですわね……。かなり無茶振りにはなってしまいますが、良く飛行型の対処をした特機が起こしてしまう問題として『外れた弾の行く末』というものがあるでしょう? 命中せず飛んで行ってしまった弾丸が市街地などに着弾してしまい大問題に、とかよく聞く話です。



「ですのでそういった……」


「お嬢様。」



私がそう言葉を続けようとした時。電話を取り出していたじいやが、私の耳元に口を近づけてきます。



「探査本部から“怪獣の痕跡を見つけた”との報告が届きました。」


「了解ですわ。」



意識を切り替えながら、じいやにそう答える。


怪獣の痕跡、それがすでに倒したものか、未討伐のものかは解りませんが……。わざわざ連絡を入れてくださったと言うことは、こちらも用意しなければなりません。地下空洞の深さは約800m、特機用の簡易昇降機が設置されていますが、それでも降りるだけで結構な時間が掛かります。すぐに救援に行けるよう、先に降りてしまっておいた方が良いでしょう。



「皆さま、出撃準備をお願いします。」


「「「了解ッ!」」」



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