第7話 魔物の消滅

 カツン……カツン……

 石敷の上を歩く音が聞こえた。マーリンがきたのか?

11番エルフ牢に入ったのを見つかってしまう!)

 でも隠れる所なんてない。


「マーリンだ、どうしよう!」


 一瞬、牢の中が歪んで見えた。白い霧がかかったようになって、エルフの姿が消えてしまう。何の音も聞こえなくなり、僕だけが牢の中に残された。

 どれだけ時が経ったんだろうか。

 やはり、突然にエルフが戻ってきた。

 そのエルフの前には、生肉が乗った皿が置かれている。


「どこへ行っていたの?」


 困惑している僕を、エルフは揶揄うように笑う。


わたしは何処に行っていません。貴方に隠れて貰ったんです」


「え?」


「魔力で、世界を少しだけズラしました。貴方には、ズレた方の世界に暫しの間だけ行って貰ったんです」


 世界をズラす……マーリンも結界を張って、相手から自分の姿を見えなくする魔法を使える。そんなものなのかな。


「魔道士の方が、を持って来て、帰るまでの間だけ」


 エルフは左手の人差し指で、生肉の乗った皿を指差す。どうやら僕は、マーリンが彼女に食事を届ける間、彼女の作ったズレた世界に移動していたらしい。


「エルフは、これを食べるの?」


 皿の上の肉は、何の肉かはわからない。でも、生のままなんて。

 エルフは、少し困ったような顔で首を横に振った。その返事に、僕はホッとしてしまう。


「じゃあ今度、白パンを持ってくるよ。チーズも!厨房の料理人に、焼き菓子を焼いて貰うよ」


 彼女は、パンもチーズも焼き菓子も知らないようだった。僕は「次に必ず持ってくる」と約束して、11番エルフ牢を出た。

 多分、マーリンは部屋に戻っているだろうから。


「あれ?」


 中廊下で、扉が開いたままの牢が増えているのに気付いた。

 昨日まで9番ノイン牢と12番ツヴォルフ牢、それと魔牛ミノタウルスがいた2番ツヴァイ牢が空いていた。なのに、今日は更に7番ズィーベン牢、8番アハトゥ牢、10番ツェーン牢の扉も開いたままになっている。



 マーリンは部屋に戻っていた。僕は、門番と村人たちのやり取りを伝えて「魔物討伐の兵を出して欲しい」と頼んでみた。マーリンは僕の話を聞いて直ぐに「わかりました」と兵を出すことを約束してくれた。


「ただし、少し時間を頂きたい。砦の中でも妙なことが起こっていまして、そちらの調査を先に済ませたいのです」


「妙なこと?」


「使役している魔物の数体が消滅しました。牢の中には依り代となった獣の死骸が残っているだけでした」


 こんなことは初めてで、説明がつかないのだとマーリンは言った。

 扉の開いていた3つの牢のことだと、直ぐにはわかった。

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