第6話 エルフ
翌日、砦の門番のところに村人らしき人たちが押しかけてきた。
「お願いします、お願いします」
「領主様だけが頼りなんです」
何度も何度もお辞儀しながら、彼らは門番とかなりの間やり取りを続けていた。
「どうしたの?」
「若様!」
門番と村人たちの話を聞いてみると……。
近隣の村々で、子供が魔物に襲われる事件が起こっている。おそらく周辺の森に魔物が増えて、その仕業だろう。
けれども、もう何度も魔物征伐の兵を出して森を調べていて、魔物は見つかっていないのだと言う。なのに、子供が襲われる被害は続いている。
門番も村人に同情して、強い言葉で追い返すことができないようだった。
森に兵を出すだけなら、マーリンの判断で出来る。僕からも「もう一度兵を出す」よう頼んでみる、と約束した。
砦の中でマーリンを捜した。一通り捜したはずなのに、マーリンの姿を見つけることはできなかった。もう捜していないは地下牢くらいだ。
地下への階段を下って石敷の中廊下に来たが、人の気配はない。この前のように不規則な唸り声が石に響いているだけ。
僕は
「!」
思わず手を触れると、木製の扉は簡単に開いてしまった。魔物を封じ込める結界は、人には作用しないのか?
キィィィ
開いた扉の向こうには、エルフが右膝を抱えて蹲っている。
木の軋む音に気付いたのか、エルフは顔を上げた。射干玉色の眸が僕へ向く。
「ここは、子供の来る場所ではありませんよ」
「え?」
穏やかな声だった。思わず、開いた扉から牢部屋の中へ飛び込んでしまった。
「エルフは……喋れるの?」
「はい。喋れますよ」
エルフは、双眸を細めてにっこりと笑う。
「でも……
「そうなんだ」
思わず納得してしまった。そんな僕を、逆に驚いた眸で見るエルフ。
「冗談ですよ。喋りたくない人とは喋らないだけです」
そう言って笑うエルフは、本当に悪戯好きな妖精に見えた。
エルフは、本当に綺麗だ。明かり取りの小窓から差し込む陽光に艶を光らせる黒髪は、まるで星を湛えた夜のよう。同じく切れ長の双眸にある黒い瞳は、射干玉色の宝玉。
そして透けるような白い肌と膨らんだ乳房。
「あら……」
僕の視線に気付いたエルフが、左手で胸を隠した。顔が一気に熱くなってしまうのが自分でもわかる。
そんな僕を見て、エルフはまた笑ってくれた。
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