第3話 魔道士マーリン

 以前のマーリンは優しくて、僕にとっては兄のような存在だった。僕が幼い頃からの家庭教師を努めてくれていて、色々なことを教えてくれた。


「かつて世界を創造した神々の力は、既に失われてしまいました。その神々の力の残滓が、魔物となって地に住む人々を脅えさせています」


 マーリンは、魔も神の力と同じだ考えている。


「多くの村が魔物に襲われ消えました。そして同じくらいの村を、人間は森を切り開いて開拓しています。当然それは魔物との戦いであり、人が魔物を撥ね除けた結果ともいえるでしょう。『魔』とは、世界を侵食しようとする人間への神々の呪いかも知れませんね」


 人間にかけられた『呪い』を解くために『魔』を研究する……そう言ったはずのマーリンは、今はもういない。

 研究のためと言いながら、魔も人も使い捨てる……今のマーリンは、そんな風になってしまった。



 マーリンが、魔の研究に使っているこの砦には地下に12部屋の牢獄があり、その地下牢に結界を張って、マーリンは使役する魔物を幽閉している。だから、彼女も地下牢のどこかに入れられたはずだ。

 伝承の森の探索から砦に戻った翌日、僕はマーリンにいてみた。


「彼女はどこにいるの?」


?」


「伝承の森で、マーリンが隷属の首輪をかけた……」


「ああ」


 やっと「合点がいった」という風に、マーリンは納得した。


「確かに、女の見た目をしていましたね。でも、あれは人ではありません。当然、女でもない。なかなか知恵があるようですから、人に取り入るために女の姿に擬態をしているのでしょう」


「でも、彼女は……」


 僕を助けてくれた……と言おうとしたが、僕の言葉はマーリンに遮られてしまう。


「あれの力を測るために、これから魔牛ミノタウルスと闘わせてみるところです。一緒に地下牢へ来られますか?」


 彼女を魔牛ミノタウルスと闘わせる?


「酷いよ、そんなこと!」


は魔物ですよ。女の姿形に惑われてはいけません」


 そう言ってマーリンは歩き出した。仕方なく、僕もマーリンの後を追いかける。



 地下牢へ繋がる石階段をマーリンは下る。石を敷き詰めた中廊下の左右に6部屋づつ牢獄が並んでいた。各々の牢には1番アインから12番ツヴォルフの番号が振られている。

 11番エルフの牢に、彼女はいた。裸の姿だった。捕らわれたときに身体に巻き付けていたボロ布すら奪われたのか?


「どうして裸なんだ?」


「魔物に、衣服など必要ありません。暑さも寒さも魔力で制御できるのです。らが衣服を纏うのは、人の眼を欺くためです」

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