第2話 伝承の森
マーリンと言う名前は、きっと本名ではないと思う。神話に登場する偉大な魔法使いの名前を自称していたのだろう。しかし、マーリンが優秀で類い希な魔道士であるのは間違いない。
『森に囲まれた小さな村
村娘を生け贄に、一晩森に置き去りにせよ
生け贄の村娘は子を宿した
そして
魔を喰らう魔を産み落とす』
ある地方に伝わる伝承とも昔話ともつかない話の一節だ。既に、その村は失われてしまっているから本当の場所は定かではない。
マーリンは研究の末に、その『魔を喰らう魔がいる森』を探し当てた。そして、10人の騎士と共に『伝承の森』へ探索に来たのだ。そこに僕はついてきた。
領主である父の騎士団で、僕は間もなく初陣を飾ることになっている。魔物討伐は、その練習のつもりだった。父も「マーリンが一緒なら」と許してくれた。
僕は……魔物の本当の恐ろしさを何も知らなかった。
探索を終えた帰り道。10人いた騎士は5人しか残らなかった。
僕とマーリンそして5人の騎士は馬に乗っているが、隷属の首輪に捕らわれた彼女は歩かされている。僕は彼女が気になって仕方なかった。
マーリンの優秀さは護符や呪具の製作だけではない、彼は何と魔物を使役する術まで体得している。今日も2体の
「連れてきた
マーリンは鎖を引っ張って、彼女を引き寄せた。鮮血色の唇が悔しそうに歪んでいる。そんな彼女をマーリンは、馬の上から得意げな顔で見下ろしている。
(彼女は、僕を人狼から助けてくれたんだ)
なのに、僕はそれをマーリンに言い出せないでいる。僕を助けに来なければ、彼女がマーリンに捕まることはなかったはずなのに。
僕はマーリンが怖かった。
今日、探索した『伝承の森』の魔物は途轍もなく強くて、5人の騎士は魔物に引き裂かれて死んだ。5人の騎士の命が失われたのに、マーリンは笑っている。
マーリンが使役していた2体の
マーリンにとっては人も魔物も、研究の道具でしかないのかも知れない。
(彼女はどうなってしまうんだろう?)
彼女を助けたい……そう思っても、僕はマーリンに言い出せない。
日が暮れる前に、僕たちは砦に帰り着いた。
この砦は、マーリンが気兼ねなく魔の研究をできるようにと父が彼に与えたものだ。マーリンは、ここで自由に魔の研究をしている。
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