第一章 理想③
激しい足音の後、ブレーキ音の聞こえそうな勢いで扉の前に少女が止まった。ショートボブの赤髪。フリルのついた茶色のワンピース。羊のようなくるんとしたツノが愛らしい。そのツノさえ除けば
「あれだけ今日こそは会議に出てくださいって言ったじゃないですか! どうしてここにいるんですか!? どうせメノウ様はじきに死んで──……」
視界の
「メノウ様……? え? なんで……意識、
「あ……ええと……」
どうやら、自分がメノウという人物なのは確定のようだ。おそろしく外見の整ったゼルと、意志の強そうな少女。二人を前に
「ヴィヴィ、メノウ様はたった今お目覚めになったばかりだ。落ち着かれていないところで
「うまくやれるわけないじゃないですか!」
部屋に飛び込んできた時の
「私みたいな小物にうまくまとめられるわけがないでしょう。いいですか? ディース様は
(戦争……?)
「あ、あの……戦争って、この国が攻め込まれる、とか……ですか?」
平和とはほど遠い単語に、気になってつい聞いてしまう。なぜかヴィヴィには
「はい、そうです。正確にはうちが攻め込んで、向こうが攻め返してくるって構図ですけれど」
(うち……向こう……?)
「ヴィヴィ、そういう話は後にしろ。メノウ様はずっと意識不明の状態だったんだぞ。そのせいか、今は
「あ、いえ、でも」
前世なら
「その、私が……聞きたいです。えっと……戦争が起きるんですか?」
今世で平和に生きるなら、少なくともこの世界の
「メノウ様……お体は大丈夫なのですか? ヴィヴィの話にはメノウ様が受け入れがたい話もございます。もしも無理をされて、また
心配そうにゼルに見つめられてたじろぐが、ここで退くわけにはいかない。
「だ、大丈夫です。平気です。だから、その……話を、聞かせていただいても?」
美咲が遠慮がちに聞くと、ゼルが小さく息をついた後、ヴィヴィに
「メノウ様が意識を失っている間の出来事だ。説明するならちゃんとしろ」
ヴィヴィは彼にも怪訝な目を向けたが、あらためて美咲に説明してくれた。
「今この世界で起きようとしているのは、魔族の国ヴィシュタントと、人間の国リーヴァロバーの戦争です。
(人間? 魔族? よくは分からないけど……)
「なんでそんなスケールの大きそうな戦争が……」
「きっかけは、あなたが意識不明の状態で返されたからですね」
「私?」
「魔王の
「────」
メノウ・ヴィシュタント。
その名前に、今度ははっきりと聞き覚えがあると感じた。自分の姿を見たくてベッドを下り、鏡台を見ると、美しい
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