0175:選手入場

 前回の対戦終了から一時間後。第二試合の開始が近づいている。


 一回戦、近距離戦二試合は公式ランキング18位「足狩り」綾口絹子vs公式ランキング29位「細剣」島田政秀。


「綾口は裏ランクが14位、島田が19位ですから……まあ、同格と言っても良いと思います」


「「足狩り」綾口絹子さんは薙刀使いですね。「細剣」島田政秀さんが元フェンシングオリンピック候補です。二人とも……高校インターハイ優勝経験者です」


「経歴的には申し分ない……あ。その前に師範代、お教え下さい。マガシは何故、アレほどあっさり腕を断たれたのでしょう? 一回戦はあれで勝負が決まったと思われます。直後にトンデモナイのを見せられて、失念してしまいましたけど」


 甲田さんが真白さんに問う。ああ、あれかー。


「あ、そうです、そうです、まさかの一撃というか、「2本剣」ともあろう人が、いやにあっさりやられちゃってましたよねぇ。何故なんです?」


 的場さんもうんうんと頷いている。


「あ〜あれね〜やられた方は気付いてないかもね~。まだ。映像を何度も観れば判ると思うけど~」


 こっち見んな。いいですよ、説明してあげてください、という顔をする。うちの仕来り的にね、直弟子に何か教える場合は、俺の許可がいるからね。流派とかって本当、仕来り面倒くさい。


「キモはあの長巻の柄だね〜。あれ、どんな構造か分からないけど、伸びるみたいだね〜しかも十センチ位~」


「!」


「それは……十センチも……伸びてましたか?」


「そこはそれ、彼、え〜と」


「安藤亮です」


「うん、彼。ものすごく丁寧に伸ばし縮めを隠してたからね。次も在るから、SNSとかに書くのは止めてあげてね〜」


「は、はい。多分、師範代くらいしか気付けなかったと思いますし」


「そんなことないよ〜それこそ~総長とか、冷たいのも気づいたと思うよ?」


「そのレベルなのですね……」


「それにしても、そういう裏側……というか、あの状況でも隠されている奥の手……まで見えないと何だと思うんですが……なかなか難しい」


「ですね……」


「まあ~でも~少しでも違和感を感じたなら、そこには理由があるよ~なので探求する気持ちは忘れない方がいいよ~」


「はい」


「はい」

 

 的場さんも頷いている。モニターに大きく、えっと。「足狩り」さんと、「細剣」さんが映し出されている。


「綾口絹子さんはクラン、ライナス所属ですね。女性探索者中心で構成されているクランで実力も業界5位に入ります。取締役はほぼ女性というか、元々ライナスって言う女性のみのパーティが母体ですね。ここならそもそも性差別やセクハラがないので安心って女性探索者が加入しやすいって聞いたことがあります。というか、私も誘われました」


「ほう。そういう地道な勧誘活動もしているのですね。ライナスほどの大手クランでも」


「そうみたいですよ。うちも勧誘しないとですかね。甲田さん」


「そうですね……我が主君マイロードの偉大さを知らしめるという意味で賛同者を募る……というのはアリだと思うのですが……」


「あーそうかもですねー靖人様を信奉する……」


 おい、やめろ。



「あれ、でも本庄さんは良いのですか? 女性メンバーが増えたら、ライバルになってしまうかもしれませんよ? 我が主君マイロードはもの凄いカリスマですから」


 おいおい。もし、本当にそうなら、高一まで彼女どころか、異性と付き合った事無し……ってことねーだろ? ん? 今どきの中学生舐めんなよ? 教室の隅、カーテンの中でキスしてるヤツとかいたからな? いたからな!


「……し、仕方在りません。靖人様ですし……私は愛人1号ということで……1号は譲りません」


 仕方ないってなんだよ! というか、愛人でいいのかよ! おい!


「あ。で。「細剣」の島田さんはクラン、若島組ですね。若島組もそこそこ大手です。本当に正統派というか、実戦派のフェンサーだそうです。この対戦も……結構噛み合いそうな気がします。私」


 え。普通に流された。





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