0176:相性
「奇遇ですね。私もこの二人の対戦は噛み合うんじゃ無いかな? と思います」
「うんうん、だね~」
「綾口さんは練習動画とか配信するタイプではないです。なので戦闘スタイルとかは雑誌のインタビューでしか知らないんですけど、薙刀使いの中では足さばき重視タイプに思えます。何よりも……背が小さいですからね。素早い動きは当然な気がします」
「逆に……「細剣」は分かりやすいというか、直線的で無いフィールドフェンシング……ですね。実際に昔共闘したことがありますが、もう、それ以上でもそれ以下でも無く、単純に強かった覚えがあります」
「フェンシングも対人戦特化の剣法だし……というか、レイピアも……強いよね~。特に、今、彼が手にしているのはフルーレでもエペでも無い、迷宮素材を使用して作られた、新世代のレイピアだし~。アレ、ガードの部分は完全に手が隠れてしまう特殊な形で、ブレードの長さもかなり長い上に太さも太い。でも、軽い。何よりも新金属を素材にしているから、しなりも半端ないみたいだしね~」
「確か……剣先部分の金属はとんでもないレアな金属だったような気がします。本人が言っていました」
「へ~なんだろう。まあでも、あのタイプの剣の先端は突き刺すことに特化してるわけだから、奮発しちゃうよね~」
「はい」
身体の小さい方、綾口さんは体が小さいこともあって、重装備な全身鎧系は身に付けていない。ぶっちゃけ、鉢金にジャージにしか見えない軽装フル装備に、篭手と……脛、あと、肩と腰周りに板金を貼り付けた部位装備を着けている。
一方、島田さんの方はフェンシングの公式戦で選手が装備する面と防具一式……を身に付けていた。まあ、その辺の防具も迷宮素材を使用した、新しい鎧だ。でもこれ……。
「あの、島田さんの方が面も着けていますし、鎧も全身……アレ、布じゃ無いですよね?」
「当然。元々、フェンシングの防具はケプラー素材や、最新の防弾チョッキ用の素材を使用していたから、それこそ、探索者の布系の防具は、フェンシングの防具の素材を流用して作られたモノも多いのです」
迷宮前の現代では、ほとんどの武道は完全にスポーツとなりつつあった。それは、当然、時代の流れでもあるし……当たり前だが日本だけではなく、世界的に「人殺しの技」が必要無い社会が構築されつつあった。
それこそ……うちの流派なんて「使い手」は確実に減っている。分家だなんだで、じいちゃんの若い頃には数万人規模の組織だったのが、現在では多分、実際に戦える者は千ちょいといった所だろうか? あ、いや、俺が宗主にされているが、現在でも組織の業務はじいちゃんが、さらに言うと……実務は母さんの指示で真白さんが動かしている。さすがに高校生、学生のうちはあまりに血生臭いのは……と、うちの大人達が配慮した結果だ。
まあ、スポーツと化してた武道が迷宮のせいでメキメキとその本来の力を取り戻しつつある。だが。そこには実戦的な矛楯も生じることになる。
「そうなると、ちょっと疑問なんですけど……幾ら高性能だとは言っても……あの鎧で、綾口さんの薙刀の一撃を防御出来るものなんですか?」
「ああ~それはねぇ~防御出来ないね。言う通り、あの鎧じゃ……というか、多分だけど、上位のランカーの持つ一流職人産の武器……特に日本刀や長巻、薙刀の一撃はほとんど防御不可能じゃないかな? 盾を斬り落とすモノもあるわけだし~」
「ならば、無駄なのでは? 鎧や面を着けると確実に動きが鈍くなります」
それは、でもまあ、違う。
「えーと~そりゃ、渾身の一撃は絶対に防御というか、受け止めることは出来ないだろうね~。一流職人の打った刀系の切れ味とんでもないから。でも~敵の攻撃の角度をずらして、受けた一撃なら~うん、防具で防ぐことも出来るかもしれないからね~」
「あ、それはそうですね」
「多分、「細剣」島田さんにとっては、あの装備は戦闘服なのでしょう。アレを着た瞬間から闘いが始まる……とインプットされているのだとしたら、アレを着なければ始まらないことになりますから」
まあ、そうだろう。でなければ、フェンシングの姿形に拘る必要がない。
TVの画面に「第二試合開始まで、あと二分」の文字が表示された。既に二人は抜身で武器を構え……臨戦態勢に入っている。
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