0174:探索者の過去は問わない
「日本国内で考えても……探索者……足りませんからね。質の向上を考えるのであれば、確実に、総数を増やさなければ……しかし、少々過激な気もしますけど」
「それくらいでないと使いものにならないという判断ではないかと。それにこれくらいでないと、国内はともかく、国外は……理解すらされないのでは? それこそ、いくら日本が支援しても、都市周辺の魔物がいなくなった途端に、探索者を拉致する国とかもありますし」
「あ〜あれは酷かったねい」
「真白さん、ニアベス事変の時、現地に?」
「ああ、いたね〜」
そりゃね、いたでしょうよ。
二アベス共和国の首都で発生した大氾濫。当時同盟国だった日本は、多数の探索者を派遣して、それを抑えた。が。そのタイミングで軍部を中心にクーデターが発生。政府中枢組織は爆破され、新政府による軍事政権が成立。大氾濫の処理を終え、疲弊し、地上に帰還した探索者を次々と拉致監禁して自国の為に強制労働させようとした。
そのクーデターを率いてた将軍&幹部を軒並み……数日間で謎の怪死させて、投獄されてた保守派を立てて暫定政府を設置させるなんて、この人が居なかったら出来ない相談だ。
主に実力、武力行使の意味で。
「そもそも日本は迷宮以前の資源輸入国時代の流れで行っていたODAが多すぎるのです。現在は迷宮大国として、迷宮被害を受けている世界各国に支援を続けていますが、それも限界があります」
「経済学的にも、今の世界各国の日本への依存度は尋常じゃないレベルですからね」
「なのに、探索者派遣を侵略だの、軍事介入だの。騒ぐ国がありますから……」
「うざいねぃ~」
貴方、実際に、そのゲリラ的な活動支援に加えて、侵略だの軍事介入だのに近いこと……やってますよね。大量に。絶対。
「ヤスチン、なにかな~その目」
(チンやめろ。まっしろ。というか、しらじらしくて耐えられないですよ?)
「あ。「2本剣」と「討伐王」のコメントが……」
──お疲れさまです。残念ながら負けてしまいました。感想をお願いします。
マガシ:「アレが幻だなんて信じられないくらいリアルだった……。痛かったし……というか、死ぬという事はこういうことかと理解出来ただけで、この大会に出た価値があるのかもしれない」
──お疲れさまです。一回戦勝利おめでとうございます。感想をお願いします。
安藤亮:「じ、自分は……痛みをコントロールする修業も行っているのですが……それでも、肩に攻撃を受けて焦りましたし、冷静に行動が出来なくなっていました。胴を薙いでしまったのも、怖さ故です……今回は自分は死にませんでしたが、人を殺す感覚、感触は消えそうにありません。迷宮で命を賭けて闘うということを改めて考えていきたいと思います」
「……二人とも、試合の感想じゃ無くて、斬られた斬ったの感触の感想になってますな」
「……多分……これまで人を斬り殺したことが無かった……っていうのが判りますね。熟練の探索者なら何かとトラブルに巻き込まれて私闘とかで経験済みな場合も多いって聞きましたけど?」
甲田さんが頷く。
ある程度……ランキングに掲載されるレベルの探索者ともなれば、有名税や妬み嫉みが大量に発生する。その結果、自分の意志とは関係なく、迷宮内で私闘へと発展することも多い。
普通の人同士であれば死ぬ前にポーションで治療する事が多いし、命の取り合いまでには至らない。それでも事故は発生する。結果として殺してしまった……呆然としているうちに、死体は迷宮に飲み込まれた……という事案も多々あるのだ。
その辺は暗黙の了解……ではないが、探索者に過去……いや、迷宮内でトラブルに遭遇したか……を尋ねる事はタブーとなっている。
当然。何時の時代、どこにでも、ネジの外れているヤツは存在する。探索者の場合、迷宮というある意味治外法権な場所が存在する為に、凶悪な展開も有り得る。それこそ、こないだの「偽勇者」しかり。
ヤツ自身は「自らの告白」によると、己の力に溺れてしまったタイプで、本来の気は小さく、実際に自分の手で、自ら誰かの命を奪ったことは無いようだった。罪は大量に犯していたのだけれど。多分、嘘じゃ無いだろう。あの状態で嘘が吐けるとしたら大したモノだ。
どちらかといえば、ヤツの引き連れていたチンピラ共。そして「哮る鉄塊」「黒き刃」の様な陰でコソコソと動いていたヤツラの方が残酷性が高い様だ。まあ、そういう場合は多いよなぁ。
女性を襲ったりしていたのも主に手下たちだ。「偽勇者」自身は、チヤホヤされたかった程度だった様だ。
ポーションを使えば肉体的な傷は消えてしまう。なので訴えようが無い。精神的な傷は残るだけに厄介だ。
「ああ、そういうことだねぇい……そういうコメントだね~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます