0173:無かったことに
「おわわわわわわわ! 「無かったことシステム」の反響、とんでもないですよ……全世界的に」
(そりゃそうだろ……)
今回の武闘会はTV番組に加えて、全世界にネット配信されている。当然、通常の地上波、民間放送の映像はリアルタイムで、過激な部分にモザイクが掛かっている。
先ほどの対戦で言えば、マガシの腕がボロンと垂れ下がった前辺りから、リアルタイムで強力なモザイクが掛かっている。お茶の間にはなんとなく腕に大きな傷を負った? としか見えてないはずだ。
で、ネットは無料配信は同じモザイク入り。有料配信ではモザイク無し版もマルチチャンネル版も見れる。
あれだけの大怪我、しかも確実に死ぬレベルの壮絶な斬り合い、人間の胴体の両断を見たにも関わらず、次の瞬間、「無かったこと」にされて、普通に立っている。
騒ぐよね。
この監視室? にはネット回線も引かれている。まあ、さすがに、無線LAN化は無理だったそうだ。さすが迷宮。なので、お漏らしが私物のノートパソコンを持ち込んでネット情報を収集している。
SNSは大騒ぎな様だ。アレが大魔術である……としても「聞いてない」とか、「あんな怪我が治るのか」とか、迷宮で「怪我を治療して欲しい」etc.トレンド全てを埋め尽くす怒濤の勢いだ。
それは当然、日本だけに留まらず、世界中から同様の意見が集まりつつあった。賛否で言えば否が多いだろう。つまりは……日本だけが迷宮を「乗りこなしている」事への非難だ。
特に今回の様な、回復系の魔術(に見えるだけだけど)はヤバイ。勘違いされると、術士は死ぬ寸前まで回復し続けろ、いや死んでも回復しろ、なんていう、迷宮以前の甘ったるい倫理観で責め立ててくるヤツが後を絶たない。
なので、この後、公式発表が……あると……。
「あ、公式発表きました。念押しですね」
迷宮局のHPは各言語で公式発表、というか声明を掲載した。
・今回のイベントは特別である。異常な開催コスト(主に予算金額だけでなく、人コスト)が掛かっている。
・会場にあらかじめ施してある魔道具は非常にレアで、まずはそれが偶然用意出来なければ開催出来なかった。
・出場選手達にもあらかじめ、各種術を設定してある、その魔道具を使用し幻術を施した上での回復の術であり、ただ単に「現時点で既に症状のある者に」術だけではどうにもならない。
・もしも……先ほどの様な「無かったこと」を個人で行うなら。その回復の魔術は、施術する者の命を代償に行う事になる。さらに、単純な回復、蘇生などの魔術とは「モノ」が異なる。
・そうまでして、日本が今回の武闘会を開催したのは、未だに多い探索者への誤解、既に危機が迫っているにも関わらず、動かない者への警告である。動けない者を責める社会にしたいわけではない。ただ迷宮で探索者を営むという事はこういう事なのだと知り、せめて無駄な非難を減らしていきたい。
・探索者の地位向上と現実、それらを正しく世の中に波及させる必要があるための施策となる。
・心有る者は立て。今は人類の危機なのだから。
・日本政府は今ここに、人類の天敵と化した迷宮及び魔物に対して、総力戦を開始する事を宣言する。国民総探索者化。さらに同盟国での迷宮対策の確立を優先事項とする。
・そのため、大会開催後、友好国へのあらゆる人道的支援はいったん凍結される。なぜなら、それをやっている余裕が無いからである。今回の映像の放送、動画配信も「エンターテイメント」としての商業行為では無い。現代人に精神的革命を促す薬となることを願う。
冷静に考えて、言い切ったなーという感想だ。特に最後の凍結の下りは言わなくても良いことを「敢えて」言っている。これでさらに炎上しないとは……思って無いよなぁ……。絶対。わざとだよねぇ。
特に、迷宮局、ギルドがこういった「日本国」という国全体を代表するような声明を発表したことは過去に一度も無かった。政府の関係庁がその辺は取り仕切っていたのだ。その辺の関係が、どうなっているのか非常に怪しい。
まあ、真白さんがここにいるってことは、その辺、少なくとも国内はちゃんと了承済みって事なんだろうけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます