0163:社会騒然

「勇者」間宮宗一。公式ランキング一位で、その圧倒的な武力で武闘会本戦に当然の様に勝ち残っていた。


 そんな有力な優勝候補が開催直前で出場を断念、さらに探索者を引退、その後の事を託す書類を残して、未踏破の迷宮へ向かい、連絡が取れない、行方不明。という公式発表があったもんだから、世間はとんでもなく炎上した。


 いきなりのその理由も「多くの仲間を失ったため、その責任を取る」とされた。実際、池袋迷宮で自分の会社の仲間(手下)約二十名が謎の魔物に襲われて失踪しているのが確認された。


 あまりに良くある、最もらしい理由に世間一般は納得、同情? するしかなかったが、間宮を知る関係者、もしくは多少なりとも被害にあってきたランキング上位者たちは一様に首をひねった。


「百歩譲って、あいつが仲間の事を思って、引退するはずがない」


 何かあるのではないか? といぶかしむ者も多数いた。それこそ、既に仕組まれていた闇賭博のための八百長なのではないか? 本命が直前で下りる事で誰かが得をするのではないかと。


 が、周辺の関係者のほとんどが死亡、失踪してしまったため、その後、新情報が一切出る事も無く「間宮も焼きが回った」と、噂されるに止まっている。そもそも、間宮は自分の力のみで凄まじい金額を稼ぐことが可能なため、八百長に荷担する意味がないのだ。というもっともな噂も広まったりしている。


 当たり前だが、迷宮局主催の武闘会くじ、という優勝者予想の公式ギャンブルも稼働している。なので、公式では彼に関する賭けくじの払戻が行われることが発表されたし、闇の賭博筋での金銭の動きもヤバイくらい激しくなって、当局に摘発されたりしている。


 結果、勝敗倍率が大きく変化し、混戦混迷の様相が異常に強まった様だ。


 俺が最終的に間宮から書面で意志表示をさせてから、行方不明にした一番の理由がこれだ。


 正直、彼が自分の言葉で、説明することが大切だった。曲がりなりにもランキング1位しかもここ二年くらいはずっとその位置を守り続けていた絶対王者だ。それが引退するという事実は探索者業界にとって非常に大きな意味を持つ。


 彼自身が何も言わず、残さずに「行方不明」になったり「殺されたり」するのは、業界全体に影を落としかねない。例え裏がアレであったとしても、表ではそれなりにヒーローだったのだ。


 それこそ、仲間はほぼ全員失ったが(別行動だった数名は助かった。残念。残念じゃ無いけど)、その相手は間宮が撃退した……ということになっている。

 何よりも……ランキング1位という肩書きに「目が眩む」人は非常に多い。そして、そういう一般的な人への影響も大きい。


 間宮の代わりに繰り上げで本戦に招集された者や、組み合わせの再抽選などゴチャゴチャと面倒な仕切り直しが行われ、決戦間近の緊張感は最高潮に達していた。


「決勝トーナメントの会場は〜ここ、日比谷迷宮の第一階層、通称花壇エリアで行われます」


 地上波のTVで昨年の好感度ナンバー1の女性アナウンサーが、レポートしている。


「ここ、この大門から先はこれまで探索者の資格を持つ者しか、潜ることはできませんでした。実はそれは、今でも変わってはおりません。私は3年前、番組の企画で探索者免許を取得して、その後も何度か体験レポート、迷宮関連の取材のため探索者のお仕事を経験して参りましたが、この様な日が迎えられるとは思ってもおりませんでした。では。まずは、カメラマンに大門を越えてもらいます」


 女子アナを撮影していたカメラマンが、女子アナの顔を撮影しながら、バックで大門に入った様だ。


 一瞬、画像がぶれた。が。次に表示されたのは大門の黒い侵入部分。しばらくして……そこが波打つと、中からさっきの女子アナが出現した。


 実は大門の向こう、迷宮から排出されるシーンはこれまで何度もTVで放送されている。なので、その逆でしかない侵入シーンは見た目には早々新しくない。だが。ここから先は……。


「これが歴史的にどれほどの事かは私には判断できません。ですが、1頁。歴史の1頁なのは間違いないでしょう。目の前の一見普通な事務所の一室。ですが、ココが、ココが。探索者が始まりの第一歩を踏み入れる迷宮局出張所、大門内。ココは既に迷宮第一階層です。私は、今、今、迷宮内の映像を生中継でお送りしております!」


 女子アナが若干興奮しながら案内する迷宮局出張所内の映像は、探索者であれば当たり前の、それこそ事務的なイメージしか無いものではあった。


 が。見たことの無い、探索者免許を持たない、持てない人に取っては「死ぬほど」見たい、好奇心を刺激される映像であった。その気持ちは良く判る。俺がついこないだまで、探索者免許を取得出来る年齢になるまで想っていた物と同じハズだからだ。



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