0162:煮物とかにピッタリ
現状、以前、世界の主要国と呼ばれたような大国は名前のみで、既に実在しないレベルまで落ちている場合が多い。敢えて云うなら旧態依然の体勢を保っていて、余裕があるのは日本だけだ。
迷宮以来、紛争停止状態となり国境の書き換えは起こっていないが、実質的には国土は激減しているし、そもそも、大国として国家のシステムが機能していない場合が多い。
主要都市のうち、魔物の被害から逃れた、要塞都市化できた所だけが生き残っている。そんな都市が多く残っている国が、国としての体裁をかろうじて残しているのだ。
日本を中心とした、日本式の迷宮管理システムを導入した国にはかなり懸命な支援は行われているが、間に合っていないのが現状だ。
それこそ、支援すべき国が一国であれば……どうにかなるのかもしれないが、単純に支援を求めている国は多数存在する。そこへの助力が潤沢に間に合う訳もなく。多くの国が迷宮から溢れた魔物に蹂躙され続けている。
状況によってだが、日本は迷宮局討伐隊の派遣も支援国に打診している。
だが、それは軍事派遣、軍事侵攻、日本による浸透式の支配であるとして批判の声も当然大きく、一筋縄ではいかない。
国としての機能が回復しなければ、どうにもならない所まで来ているのに、論理的な行動が取れていないのは……人類の愚かさってやつなんだろう。依然として決断と行動に移れていない国ばかりなのだ。
核攻撃後の放射能汚染地域はさほど大きくはないが、その国の主要都市、主要施設が含まれている事が多い。
魔物が跳梁跋扈する上に、放射能に汚染されていたら、国土として機能が回復するまでどれほどの時間が必要となるか分からない。
その回復システムの需要は尋常では無いだろう。
(まあ、そんなことはどうでも良いんだけどね)
「ど、どうでもいいってことは……」
(ああ、言い方が悪かった。魔物の方は倒すしか無いし、放射能の方はどうにもならない。残念だが、こいつ本体にそこまでの、放射能除去能力、空気清浄能力なんて無いと思うぞ。大体、カエルじゃなくて、ヒルの変形、亜種っぽかったしな。吐き出す毒素も強力で解毒薬も作れない。普通に吸い込んだら魔術以外ではほぼ癒やせない。ただ。頭と尻を同時に切り落とした、毒の回る前の腹の肉は極上の食材だ。というか、さっきの肉な。食べると強力な毒耐性も付くし)
「げはっ! そ、それを知人に教えてあげたい……」
(教えてもいいぞ?)
「え? いいんですか?」
(ああ、これはもう、ある程度高ランクの探索者なら時間さえ経過すれば、誰でも調べられる案件だろうし。「誓約」に引っかかることもないと思う。信用出来る友だちに「その研究対象はどんなにガンバッても放射能除去とか出来ないから、基本無駄。だから止めておいた方がいいよ」とアドバイスするくらいは可能なハズだ)
「そ、そうなんですね? そうなのか。ああ、ええ、私がなぜ、それを知っているかを教えなければいいのですね?」
(そういうこと。「誓約」っていうのは神と、情報を漏らさないという約束を交わしたわけだけど、ちょっとしたことであればお漏らしも許される。懺悔した時に誰かに聞かれてしまったり、無記名の怪文書が届いたなんていうのは止めようがない。まあ、その辺のサジ加減が微妙で、「誓約」内容はそれを設定した者の赦しによって大きく変化する。俺が宣言すればそれがルールとなる場合も多い。その辺結構曖昧で融通が効く)
「社長! こ、これは……なんだ? 両生類でも無いし、動物の肉でも無いし、魚の肉でも無い……敢えて言うなら、豚と引き締まったトロとキノコ類の中間というか……自分でも何言ってるんだかよくわからん。うーん、こりゃヤバいぞ? 単純にステーキにしてもスゲーが、煮込みとか……ああ、醤油で煮込んだらスゴイコトになりそうだな。カレーにも極上か。ビーフストロガノフ……とにかくスープなんかの煮込み系には最強だぞ、固くなりそうに無いのに融け込まない。多分!」
うん、そうだと思う。単純に焼くよりもそっちの方が向いている気がする。
「話を聞いただけでお腹が空いてきたので、晃司さんにお任せするので早く食べさせて欲しいとのことです」
「スピード重視なら、朝だけどステーキが一番早いが、お腹は平気かね?」
親指を突き出す。
「了解」
無限の可能性に満ちた食材を目の前にして、晃司さんが満面の笑みを浮かべた。
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