0164:内部映像
その後、生中継は迷宮局出張所をすーっと抜けて、日比谷迷宮第一階層の紹介に移った。日比谷迷宮第一階層から第13階層までは通称、日比谷花壇と呼ばれている、美しい花の咲く場所の多いエリアである。
出張所の外には広大な花畑と、青い空、さらに雲、ちょっと向こうには森林という迷宮にして迷宮に見えない……それこそ、北海道の一地方の様な景観を、カメラは映し出していた。
しかも、日比谷の第一階層はバタフリアという蝶の魔物しか存在しない。こいつは基本、他者に対して敵対行動を取らないので、ある程度誘導が可能だ。大会中は、第一階層で出現するバタフリア全部を出張所裏の一カ所に集めて、保護するそうだ。というか、迷宮先進国では実害の無い魔物を無駄に殺さない……そういうことまで出来る……ということをアピールする狙いもあるらしい。
それにしても……ネットではここ日比谷迷宮の第一階層は、まるで武闘会を行うために作られた……なんていう噂が広まっているらしい。
そんなことは神以外には出来ないのだが……。
が、そう言われてみれば、確かに、第一階層には、花壇と言いながら、何故か、かなり深い森も存在する、どう考えても、遠距離戦のステージにもピッタリだ。
「必然的に、この第一階層の中央部分、現在私が立っている花畑のあたりで、近距離戦が実施される……ということらしいです」
──地上のスタジオとやり取りしているのだろう。イヤホンからの声に集中している様な素振りをしている。
「ええ、はい、そうです。この綺麗な花畑がどれだけ散らされて、地面ごと破壊されても、大体一時間後には完全に修復がなされます。なので、これだけ綺麗な所で大暴れすることに罪悪感は抱かないと思います」
「この日比谷迷宮の第一階層はこうして見ている分には綺麗ですし、今回の大会でも使用されることでも分かるとおり、非常に穏やかな地形効果の代表のような階層です。ですが。忘れてはいけないのは。日比谷で起こった迷宮初期の大氾濫の際にはここを最終死守ラインと設定されて、それを守り続けた大勢の自衛隊員がいたことを忘れてはなりません。彼らの犠牲の元に、我々は時間を稼ぎ、様々な対応を実地し、日比谷迷宮から氾濫した魔物を、人類未知の大災害だったにも関わらず最小限の被害で食い止めたのです。すぐに修復されて、元に戻ってしまうこの場所では、既にその現場であることを偲ぶことは出来ませんが……だからこそ、忘れてはいけない、と想うのです」
「ああ、だからこそ、この場所で天下一武闘会という、探索者という職業の未来を考えるための大会を、開催出来るのは、僥倖としか言いようがありません。私は……ファッション探索者と呼ばれる様な、大した活動が出来ていない探索者の代表の様なものです。そんな私ですが。英霊たちの存在を心に刻みながら。今回の大会の中継を行っていきたいと考えております……。さて。本日の中継は、諸問題を検討するためのテスト放送となっておりますので、この辺で終了となります」
「迷宮局発表によれば、この撮影を行うための設備を深層に持ち込むのは現在では不可能だそうです。なので、探索者達が苦戦するような強い魔物は早々撮せる機会は訪れないでしょう。当局も殺伐とした魔物狩りの映像などは倫理的な問題もあり、しばらくはコントロールしていきたいと述べています。つまり、その代替えとしての大会でもあるわけです。大会では様々な剣技、何よりも……魔術の使用風景が撮影出来るだろうことは確実だと思われます」
「人が魔術を使用する映像は……迷宮出現時に撮影された不鮮明な、何をしているのか言われないと分からないレベルのモノ以外だと初となります。人類が新たに手に入れた魔術という技、スキルはどれほどのモノなのか。大会終了後には迷宮局全面協力の元、魔術検証番組も企画されております。御期待ください!」
長閑な……日比谷第一階層の映像メインの放送は、あっという間に終了した。が。日本全国、いや、世界中の人々、そして探索者たちからの反応は凄まじいものとなった。
特に日本以外からの反応は物量となって、ネット回線に押し寄せた。サイバーテロでよくあるトラフィックへの負荷をかけるプログラムと同じ様なレベルのアクセスが、日本へ押し寄せる。
ギルド、日本政府は主要な言語でのナレーションを加えたバージョンをの動画を急遽作成し、ネットに上げたことで、さらに拍車が掛かり。日本の現状を確認する使節団の問い合わせが殺到し、窓口がパンク寸前という話も伝わってきていた。
ああ、やはり。世界は真実に飢えていたのだろう。
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