0154:二の押し
ハァハァハァ……
ヤツの息が切れ始めた。まあ、そりゃそうだ。これまで無意識のうちに使用してきた、術やスキル、ギフトが、魔力切れで一切使えなくなりつつあるのだから。
こいつ、魔力も多いんだな……元々。だから今までこんな風に魔力切れを起こしたこともないのだろう。
俺は。相変わらず、低い姿勢のまま、攻撃を受け続けている。
そろそろ。奴の攻撃が当たる瞬間、ことごとくその力を流されている事にも気づいた様だ。
おお。二の押し……か。
撃ち込んだ後に微妙に力を入れる……二の押しとか、後押しとか、裏波とか……一度攻撃した後にもう一度攻撃を加える技は、様々な流派で見受けられる。そうすることで、単純に受け流されなくなる上に、ダメージを相殺するような敵にダメージを与えられるようになる。
微妙に揺らす、震動を与える事で、相手が力を逃がそうとするのを防ぐこともできる。アレも二の押しの一種だと思う。
タイミングが難しいし、それをすることで退くチャンスが失せてしまったりするので、あまり有効活用できる技でもないのだが。
当然、出した刀を引き戻すスピードはマシマシにしないといけないわけで、この二の押しを加えた分だけ、さらに速くしないといけない。結構単純な問題じゃ無いんだよね。実力が拮抗している状況なら問題無いと思うけどさ。俺に対して今さらそれは。笑ける。
この辺も力量差をキチンと、客観的に判断、いや、想像出来ていないのが響いてきちゃってるんだろうなぁ。イテテ。
とはいえ、そうだな。
まあ、瞬時にここまでやれるってことは。うん、周りを見渡して、勇者を名乗る、名乗りたくなるだけの技量って事なのかな? 俺は認めないけど。絶対。
しかもそれを履き違えて、外道へ向かったのは己の心の弱さと思えっていう。
今、身に付けたばかりの拙い、二の押しを、本物の二の押しで返してやる。こちらは受け流しの上に、跳ね返すように角度を変えるだけで、ヤツの腕は痺れて、剣が持てなくなるはずだ。
ガラン……。
案の定、剣が落ちた。うん。そうなるよね。震動は止められない。いきなり高度な事をやろうとして、筋肉も破綻しているみたいだし。
既に魔力の補助も無いしな。いくら戦闘者として天賦の才があったとしても……鍛錬、訓練を重ねなければ技量は身に付かないし、サボれば、あっという間に衰えていく。高度なことをやろうとすればするほど、鍛錬の量は必要となっていくし。
一瞬その力を解放すれば良いだけなら、才能でどうにかなるかもしれないが、一撃を何倍にもして返しているからね。通常の何十倍にも感じている……ハズだ。才能だけでは追いつかない物量に、才能だけではどうにもならないと気付き始めていると思う。
俺は低い体勢のまま。聖剣(なまくら)様を肩に背負ったまま。ほぼ戦闘開始のままの構えで。視線はヤツを捉えたまま。動かない。
……。
ヤツの視線が……逸れた。
剣を拾う。うん、何故、俺が今仕掛けてこないか不思議に思っているだろう? うむ。さらに今来られたら……と怯えながら拾ったな。
怯えたな? お前みたいなタイプの探索者が狩りの対象に怯えてしまえば……心の歯止めが効かなくなると聞いた事が無かったのか? 教えてくれる者はいなかったのか? まあ、それ以前に調子にのったか……。残念。手遅れだったなぁ。なぁ?
と、思いつつも。
まだだ。まだこちらから積極的には仕掛けない。こいつは、まずは心を折るのだ。迷宮での事故を装って何人も殺しているのは明確だし、襲って、犯して、さらに殺している(最後の部分は推測)、他の事例も甲田さんによって、いくつも確認済みだ。
単純に一瞬で潰してしまうのは難しくないが、どうせなら、ボロボロの状態で生かして生かして、生かして潰す。幸いにして……非人道的な拷問の数々は、前の時に散々実践した。どこまでやっても大丈夫か? は身に染みついている。
贖罪だ。
こいつには探索者になったことを後悔しながら、残りの人生を費やし、大いに謝罪して死んでもらいたい。
ここまで鍛えられていると、迷宮内ではそう簡単に死ねないだろうしね。うん。
さてさて、どこまで耐えられるかな~なんか、簡単に手放しそう。いじめっ子の特性で打たれ弱そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます