0153:ハイポ
「あああ! くっふ、ふざけろ、ちくしょーーー! 今に、今に見てろよ?」
え? まじで? 逃げるの? なにそのセリフ。
まだどうにかなる? 敵うと思ってるのか……凄いな。ここまで思いこめるくらい、自分の力を過信……というか、勘違いしてるって。というか、こいつ、放置しすぎたんじゃ無いのかなぁ。
母さん……。討伐隊……はまあ、事が大きくなりすぎるからちと無理だとしても、真白さん辺りを極秘で派遣すれば瞬間で終了だったろうに……。
ん? 偽勇者の手に、どこかで見慣れた瓶が……ああ、ハイポーションか。うんうん、そりゃね。ランキング一位ともなれば、魔道具も大量に持ってるわな。
ただ……ハイポーションはあの一本で数千万したはずだ。現状の在庫状況から価格は、ポーションが百万前後、ハイポーションは……+いくつかにもよるがノーマルでも二千万? 程度。+1されるほどに数千万円アップしていったハズだ。
+いくつかは知らないが、骨折が瞬く間に治癒する程度のレア度はあったようだ。防具の下なので見えないが、変な角度だった腕を引っ張って強引に普通に戻し、直したようだ。
その辺、得意だからね。ハイポの得意ジャンル。今回の様な……あまり複雑じゃ無いタイプの骨折は異様に治りが早い。まあ、でも、変な角度のままで治療しようとすると色々とヤバいことになったりもするからね。万能じゃ無いんだけどね。
「くくく、振り出しに戻る、だ!」
ああ、うん、身体的、体力的にはそうかもね。でも。理解出来てないだろうけど、実は魔力はかなり失っている。「氷河」を二回、中途半端にレジストしたのだから。
そういう風に魔力が使用されているっていう常識も、そもそも魔力管理の概念すら無いからなぁ。そりゃ知らないんだからね。しょうがないというか。
特に前衛の面々は、自分が魔術を使用していると思っていないんだよな。そもそも自分に魔力というパラメータが存在することすら知らないと思う。一部の技量の高い観察力の鋭い者たちが「なんとなく」そうじゃ無いかな? で活用し始めている程度かな。
ちなみに術士寄りの素養を持ち合わせているタイプ、それこそ甲田さんも薄く気付いている派閥だし、ヨスヤもかもしれない。じゃないとあんな的確に技を使いこなせないか。あ。的場さんは3人の中で唯一、野生の勘、天性の才能でなんとかしちゃう派だ。
それ以外の人、特に目の前のヤツは、なんとなく、火事場のクソ力、いつもの慣例で戦っている。なので、厨二的に、必殺技名やスキル、ギフト名を叫ぶというのは、スキルの認識行動として大切なのかもしれない……。
と、こいつが突出して強くなったのは羞恥心が無いっていうのもあるとみた。
つまり「恥ずかしげもなく厨二的な雄叫びを上げたり出来る痛いヤツ」ってことなんだな。
スキル、ギフト、魔術がキチンと認識出来る様になるだけで戦闘能力が数倍位にはなりそうだし。例え最初は妄想でも良いのだ。思わなければ、願わなければ何も始まらない。最終的にこうして、実現出来て、叶っているのだから。
欲望の力っていうのは、ぶっちゃけ侮れないからね。
「おらっ」
うん。さっきよりもかなり重くなった攻撃。低い体勢の俺目掛けて、上から、叩き潰すかの様に剣を叩きつけてくる。セオリー。重力を味方に付けたやり方はやはり強いよね。
俺が今、肩に担いでいるのは、なまくら(聖剣)様。何度見ても……刃が落ち、丸くなり、所々焼け落ちたソレは、剣の形をした鈍器、剣の形をしたただの歪んだ金属の棒、である。
素材になっている金属は色々な意味で謎だけどさ。なんと言っても月之女神カリアが自ら作りだした……神の手によって生み出された超絶レアアイテムだし。そもそも、こんな風に痛む事は無いのよ。自己修復機能も付いてるからね。当然。
まあ、うん。神同等の敵と戦い続けた結果こうなった……ってことなんだろうけど。それだけ、この剣がここまでになってしまうくらい理解出来ない戦闘が繰り広げられたってことなんだろうけど。
肩に載せたまま、幾度攻撃を受けても、刃が食い込むような事にはならない。なまくらだから。
逆に、剣の当たる瞬間、若干握りを緩くしたり、角度を変えて当たった時の達成感を薄くしていく。
戦闘中、戦巧者は、攻撃が成功したと感じると、それを成功体験として、次のステップに進もうとする。偽勇者はその手の才能をお持ちの様だ。というか、所々で日本一の所以となる、力量というか、パラメータを見せつけてくるね。うん、それくらいじゃないとね。
まあ、なのでそれを成功させない。何時までも鉄屑を叩いているかの様な焦燥感を感じ続けさせる。この聖剣(なまくら)様の外見も、良い味出しているし。
その辺の細かい戦闘の機微は……まあ、判らないだろうなぁ。偽勇者様には。
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