0152:武器破壊

 地摺りから弾き出される刃。大地を抉る意味は、居合で鞘を使うのと通じるモノがある。


 大地に引っ掛けて、それが解放された勢いを剣速に乗せる。これによって、本来よりも強力な、自分でもコントロールギリギリな一撃を繰り出すのだ。一緒に土とか石とかも飛礫となって飛ばせるし。


 下段斜め下から襲いかかる刃は、なるほど確かに、鋭かった。


 が。既にその位置には俺の身体は無い。そして肩に預けていた、なまくら(聖剣)様が、瞬時に対応し。下から一瞬で生えてきた刃を若干流し、止めている。


 身体を入れ替えて、振り下ろして、構えて、下からくる勢いを完全に相殺したのだ。


 止められたと判った瞬間に身体が離れて行った。ああ。まだやるんだ。というか、ここまで差があっても、理解出来ないのだな。


 ちなみに、ヨスヤはこの時点で負けを認めた。


 うん、あの子アイドルにしておくのは勿体ないかもしれない。


 マジデがんばれば……ランキング1位も夢じゃない気がする。何よりも、自分と敵との客観的な実力差をキチンと肌で理解して、それを実行出来る冷静さも備わっている。熱くなりがちな戦闘中に、一歩離れた所からキチンと観察出来ているっぽいのがスゴイ。


 それは生まれとか年齢とか性格とかではなく……間違いなく才能の一つだと思う。


 まあ、完璧に打ちのめす……というか、甲田さんの調べで、他にも余罪の証拠がワンサカ出てきている以上……こいつは探索者として復活出来ないようにするなんてレベルじゃない気がしている。ちゅーか、最終的にちゃんと……人間を名乗っていられるといいんだけど。


 ジリジリと近づいて来てた間合いが、詰まった。ヤツの剣が振り下ろされる。それと同時に、多分、盾のギフトが発動した。


「武器破壊!」


 うん。名前はカッコ良さげだけど、中身は普通だった。


 破壊というか……タダのバッシュだ。シールドバッシュ。角度を合わせたシールドで、剣を迎撃する技だ。というか、このバッシュで武器を破壊してきた……とでも言うのだろうか? 本当に? うーん。


 ただの力技なんだけど。アレか、盾がそれなりのレアなヤツで、強度があるのなら出来るのかな? 技量差だけじゃなくて、腕力差があれば出来るか。


 当然、俺のなまくら(聖剣)様はこの程度では破壊されないというか、本来のバッシュの効果も発動出来ていない。中途半端な攻撃でヤツの方が態勢を崩したに過ぎない。


 てめえの腕力で、とにかく力で、全てのものを押し潰してきたのだろう。まあ、いい。勇者で無ければそういう場合もあるだろう。


 だが。それであれば。当然、やり返されても文句は言えないよな。


 なんていうか、「武器破壊」とか叫んだのを、今後、何度も思い出してしまいそうで……笑えてくる。


 なぜなら。迎撃した聖剣(なまくら)様がそこで止まらないからだ。


 逆に盾をはじき返し、そのまま、ヤツの腕に負担を掛ける。ちょっと手加減を止めた。さっき撃ち込んだ肩口、左の肩口から下……へ、受け流し、受身が出来ない角度で剣を振り下ろす。変な角度で盾が掲げられ当たったが、お構いなしに砕き割って散らした。


 盾が。斜めに入った亀裂と共に、見事に割れる。


ガスッ! ボキッ!


「グムウウッッッ!」


 良い音が聞こえた。悲鳴を上げないのは偉い様な気もしてくるから不思議。


 左腕の……肩の下辺りが折れようだ。これは痛いね。うん。声を上げないのはプライドなのかな。戦士としては正解だ。意味ないしね。


 日本一を背負ってこれまでやってきたのは伊達ではないってことかな。そうだね。それくらいはあってもいいか。


「間宮……まだまだこれからだから、だそうだ」


 お。甲田さんが自動翻訳してくれた。アレ? 今のパーティ会話だったかな?


(そんな感じがいたしましたので。間違っておりましたか?)


(ううん。合ってた。問題無い。多分、感情的になっている感覚は、もう、甲田さんは感じ取れるハズだから間違ってないと思うよ。俺の心の声を代弁出来るハズ)


(はっ。まあ、コイツ相手なら……とも思いまして)


「チッ!」


 バランスが少々崩れたまま、横殴りで剣を振ってくる。


 受け流すのではなく。わざと、こちらに当たった時に衝撃、震動が大きくなるよう、聖剣(なまくら)様で真っ正面から受け止める。角度的に痺れちゃう感じじゃないだろうか?


 なによりも。折れて変な風に曲がったままの左腕に実に響くはずだ。


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