0150:ゴキブリレベル
「ま、
現象として、術が解れていく。甲田さん的には厄介な強敵なのだ。為す術無くぶっ飛ばされた記憶が蘇るのだろう。
(いいから。まあ、うん、EX.Tachibanaに勝ったのはマグレではないって事を、証明してみせるよ)
キョロキョロ視線を動かし、自分のコンディションの確認と周りを見ている、偽勇者。
ああ、異変が起きた直後にすぐ殴りかかってこない辺りは、その辺のチンピラとは格が違うって事だろう。精神的には同等でも。
解除した「氷河」は彼の周囲だけだ。つまり、ヤツの手下たちはもう……動けない。二度と。まあ、当然だ。
「なん、の、つもりだ」
全身、ボロボロになっている。やっと、戸惑いを口に出来たようだ。
「ゴキブリレベルの君には、ゴキブリレベルの絶望を与えよう。掛かって来るといい。だそうだ」
「ふざけるなよ? 後悔させてやる!」
答えず、手でおいでおいでのゼスチャーをする。よほど気に食わなかったのだろう。
まだ、全身の筋肉がまともに動かないにも関わらず、仕掛けてきた。
ちゅうか……お前、持ってる獲物が大きすぎて、全ての予備動作が丸見え何だけど……まあ、コイツの凄いところはこういう、とにかくやってみるとか、とにかく突っ込んでみるとか、そういう、後先考えない所、思い切りの良い所……なんだろう。多分。さすがチンピラ。バカなだけだな。とはいえ、魔物相手には……効果的な場合もあるのか。
右から斜め下に振り下ろされた刃は、そのまま、あっさりと俺をすりぬけた。ん? 別に難しい事やズルをしたわけじゃないよ? 上半身をほぼ動かさず……下半身のみで高速移動して、避けただけだ。
まあでも、この場合、異様な避け方に見えたのだろう。もしかしたら、剣が俺をすり抜けたくらいに思ったのかもしれない。
バカの動きが止まった。
まあ、そりゃ。当然。俺の……なまくら(聖剣←内緒)様が鋭く風を切ってヤツに襲いかかる……何も考えず振り下ろすと、肩口に食い込んだ。うん、避け切れて無いよ? 偽勇者。
正直、新人探索者である自分には、レアな装備を手に入れる機会が早々無い。父母、ギルドにごねればそこそこなモノは入手出来るかもしれない。赤竜討伐の代償で買う事も出来る。でもなぁ。それは違うんだよなぁ。探索者として。
オーダーして作る、迷宮で発見する。どちらにしても「自分の意志」で求めなければならない。現状だと……竜の素材で産み出されるモノを待つっていうのが、順当かな。
正直、なまくら様(あの時助かって以来、なんとなく様付けで呼んでしまう。俺も大概アレな性格だと思う)に刃はない。
俺がこれを使わずに放置し、早々に新しい剣を購入したのも、素振り用にしか使えないと判断したからだ。ちなみに大量に魔力を這わせて、とにかく鋭く……とイメージして、やっとどうにか敵を裂くことも出来る様になる。面倒だし、魔力もったいないからやらないけど。
錆びた……というか、黒ずんだロングソード。元々暗い鉄色というか、黒銀色というか、金属の地金の中でも地味な色をしていた。それがなまくら様となってさらに色褪せている。現役時代は……月鉄で出来た刃が、外気を浴びると淡く翠色に明滅発光する、特に夜に映える剣だったのに。
ということで、なまくら様は現在は折れない曲がらない鈍器でしかない。絶対に折れないっていうのは、正直、レア武器を持っている様な強敵と戦う際に素晴らしく有効だ。魔力を這わすのも、もの凄く楽ちん。斬れ味は変わらないけど。
つまり。目の前のコイツに叩きつけてもなかなか「死ねない」。
ガガアアアアア!
声がデカい、声がデカいよ、子どもじゃあるまいし。ということで、五月蠅いので、地面に転がったヤツの喉元になまくら(聖剣)様をぶち込む。うん。一発で声が出なくなった。俺、お見事。
「もう少し、真面目に。100%の力で攻撃してこないと、こっちには傷ひとつ付けられていないよ? だそうだ」
涙目で睨む、偽勇者。こちらは再度、おいでおいでのゼスチャーをする。さすがに今の「見え見え」の一撃がランキング一位の力の全て……ではないだろう。というか、勇者を名乗ったんだ。せめて本家の爪の垢くらいの攻撃はしてきてくれないと。
元々許せなかったけど、さらに許せないよ?
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