0147:侵入者、横入り

 横入り……というウラワザがある。


 ボスが倒れた瞬間、ボス部屋の封鎖が解除された瞬間に入口から侵入。このタイミングが上手く行くと、自分もそのボスをクリアした事になる。さらに。この瞬間は、迷宮全体が処理落ち状態になる……なんて言われていて、ログ機能も動作しない……と言われている。


「言われている」ばかりだが、迷宮局のシステムは基本的にブラックボックスでどうなっているか判らない。なので、「言われている」になってしまうのだ。


(数週間前から見え見えの尾行とか、斥候とか……ウザかったけど。まあ、なので、来るとしたらこのタイミングかなぁと思ってたんだよね)


(ええ、そうでしょう、ね。因縁付けるのも楽ですしね)


「ログの取れていない瞬間に合流して、こちらに襲われた、斬りかかられた……と説明するつもりですか。そうですか。さすがクズですね、間宮」


「ん? なんだ? 待ち伏せでもしたつもりか? カスが偉そうにのたまいやがって。こーうーだーーーー! 間宮様、または勇者様だろう? お前、俺に仕事を回してもらったこと、忘れてんじゃねぇか? 契約書的にはお前の方が100パー悪くなってるからな」


 うんうん、いいね。いいね。大上段に構えつつも、言ってる事は純粋にクズ。さらに、正統派な手段として、今回の様な小狡い手段も当たり前の様に使う。


(うん、まあ、このタイプも知っているけれど。良かった。やはり一番嫌いなタイプだ。遠慮無く行ける)


「うんうん。まあ、いいよ、小悪党。まずはかかっておいで。と、我が主君マイロードがおっしゃっている」


「ああ、そうだったな。甲田……マイロード? だぁ? ガキを祭り上げて何しようとしてやがる」


 偽勇者、間宮宗一は、逆立てた鬣の様な短髪。それを赤く染めていた。妙に存在感があり目立つ。巨漢……迷宮局討伐隊総隊長ほどでは無いが、逆三角の上半身と、ムキムキの下半身。ハルクマッチョってやつか。ある意味、戦士として名を馳せるのも判る気がする。


「クソの想像つかないようなことだし……さらに言えば。今日死ぬヤツに何を言っても……だな」


 あ。殺す気満々だ。甲田さんがヤル気だ。


「てめぇ……お望み通り殺してやるよ! 大垣と柳原の敵討ちだ。あいつらを罠にでもはめて、まんまと殺しやがって……今なら武闘会に向けて討伐隊も手薄だからな……とことんやってやる。そのガキも一緒にな!」


 そっちもかー。そうかー。まあ、過去の事件を冷静に分析すれば、偽勇者は何人殺してるか判らないしな。


 まあ、確かにこの階層くらいになると、かなり、実力がないと活動出来ない。移動するだけならね。一度多人数でボスを倒して、踏破して、転移点を設定してしまえば簡単だけど……。


「……ああ、そういえば……いましたね。そんなお笑いな二人も。忘れていましたよ。一瞬で魔物に喰い千切られていたヤツラのことなど」


「がぁああ! くそが! マシュリ会レベルでとことんだ!」


ガバン!


 金属のたわむ、音がした。空気が焦げる匂いと、さらに地面が抉れ、土煙が上がるその匂い。


「勇者」間宮宗一は剣士。両手剣使い、しかも凄まじく大きく太く幅の広い……まあ、アレだ、漫画的な鉄板のような剣を自在に操る。多分、普通なら探索者でも重くて振り回す事が出来ないような金属塊を時には片手で取り回す。


(バカなの? なんで余計な事を言う?)


(バカなのは確かですが、本気で殺しに来てますね。なので言っても問題無しってヤツなんだと思います。普通なら言わないですよ、さすがに)


(マシュリ会?)


(以前……女だけのパーティ、クランを創設しようとしていた……実力はそこそこの人たちだったんですが……数名、中心人物が行方不明になられて……生き残った方々も急に探索者を辞められたのです。はは。あの件もコイツが絡んでいましたか)


(んー迷宮で今みたいに襲われて~レイプでもされて?)


(ええ、多分。そのようなことでしょう。何名か見せしめに殺されて……ではないでしょうか? いつの間にか、本当にいつの間にか、生き残りのメンバーも消えてしまいまして。故郷へ帰ったとか、そんな噂が)


 偽勇者の怒りに満ちた、突進からの振り下ろしは、激しく大地を削り、抉り、吹き飛ばした。まあ、派手で力一杯って感じだけど、当たらなければ意味がない。しかもあんなバレバレの攻撃……牽制にも成らない……どころか、疲れるだけで、正直意味が無いと思うんだけど、どうか。


 当然だけど、威圧にもなっていない。


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