0146:両手に花ではなく斧
(一撃……ですか)
(かっ、カッコイイ……かっこよすぐる! 濡れる)
(んー俺も訓練の結果が出てるかなぁ~)
お漏らしのはもう、対応しない。
他人に教えながらだが、自分の訓練も怠っていない。というか、教えるという行為は自分の実力を思い返すことに大いに役立つ場合が多い。結果、自分の実力……術の詠唱探索、クオリティアップなんかが上昇してきている。迷宮に、魔力を十二分に使える環境に体が慣れ始めている。多分、細かくレベルアップとか、パラメータアップなんかもしているハズだ。体調なんかも良くなっているし。
(全部捲きこめた……かな?)
(そのようですね。あの奥に次の階層への……)
そんなことを繰り返しているうちに。あっという間にボス階層に降り立っていた。
オークの住居として改造されているのか、この階層は変に土塀というか、土の壁が多い。多分、オークお手製なので、大雑把と言えば大雑把なのだが、視界は非常に悪い。
ここのボスはオークジェネラルマスター。五十近いオーク、十数のオークファイター、オークウォーリア、さらにオークジェネラルも二~三体。という大盤振る舞いだ。
多分だけど、このボス戦はオークの拠点襲撃を模しているのではないかと思う。そこを踏破するのがパーティの目的になるのだ。というか、ひとつのパーティだけで拠点制圧なんて……普通にあり得ない。まあ、過去のデータによれば、大抵、パーティが十くらい協力して討伐していた気がする。
(この後のこともあるからさ。大きく吹き飛ばすよ?)
「竜巻」
ゴゴゴゴゴガスガスガスゴイスガスガガガガガ
シンプルにしてベストな術の多い風属性。この竜巻は……ご存じの通り、竜巻を発生させて、発動後、魔力の続く限り、移動させる事ができる。まあ、普通に使えば……局所的な小さい竜巻が出現するだけだが、魔力をこの術に合わせて練り込んで、大量投入する事によって、大規模なハリケーンレベルで発生させることも可能だ。
これで……自分たちの周囲を強引に削り取っていく。
螺旋を描く様に、大きく。徐々に削り取る。土壁が無くなっていく。うん。視界が良くなってきた。
(見渡しが良くなりましたね)
甲田さんが、竜巻を避けて、こちらに移動してきた。彼の視界の向こうに、黒い大きなオークが立っていた。両手に斧を装備しているところを見ると、コイツがボスなんだろう。
(両手に斧……そして肩に大きな傷。オークジェネラルマスターに間違いありません。クロスアタックっていう技も使うみたいですよ? 他にもなんか色々やって来るっていう情報が。オークだけにドロップ品は肉です。「格別オーク肉」ですね)
お漏らしの情報は無視しているわけじゃ無くて、最終確認しているだけだ。事前の調査で、コイツがどんなボスかは既に下調べが済んでいる。
(まあでも……あいつ結構ボロボロじゃね?)
既に満身創痍……傷だらけだ。というか、現象として竜巻って超強力な自然災害だからね。
(今の術でかなりダメージを喰らった様です。自分は発動が判っていたので避けましたが)
(どうする? こいつ、俺がやった方が良いかな?)
(ええ……タイミングが大切なので、余裕のある
(はいよー)
(宗一、予定通り、本庄さんを頼んだ)
(ああ。進次郎、任す。頼んだぞ)
(判ってる……だが、今の俺たちではな)
(うむ。
(ドン引きされる事になるから……甲田さんも途中退席ね)
(いえ、私は見届けます。
(んーじゃあ、その話は後で)
「雷槍」
ジジジジジジジジジジジジジ……
放電する棒が、俺の手の平の先に出現する。スッ……とボロボロのオークジェネラルマスター、ダブルハーケンさんを指定すると。文字通り光の速さで、雷の形をした何かに、身体が貫かれ……一瞬遅れて、ボッ! という音と共に、胸に大きな穴が空いた。
(お見事です)
(ではお先に……)
的場さんが、素早くお漏らしを抱き上げると、そのままゲート部屋に走り、ゲートに入る。何度も挑戦したことのある池袋迷宮のボス階層だからこそのスピードだ。その後の展開、地図が頭に、記憶にある……っていうのは大きい。
(え、ええ? あれ? なぜですかー?)
当事者であるお漏らしが、認識出来ていない。うん、まあ、その方がいいだろう。今から行われるイベント? はどう転んでも胸くそ悪い話になるだろうからな。
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