0144:恥じらいは大切
で。探索者業界のみならず、世の中が武闘会一色で盛り上がる中。
俺たちは相変わらず、池袋迷宮に潜っていた。予定を大幅にオーバーして、今日は第三十階層と三十一階層の間のゲート部屋(第三十一階層始端31-1)に転移してきた。
(ここから三階層が山場です。雑木林地帯なのは一緒ですが、林が濃くなります。三十一、三十二にはオークジェネラルに率いられたナイトオークたちがパーティを組んで襲い掛かって来ます。別名、女人禁制エリア。特にパーティに女性がいると殺到するらしいので、靖人様は私を守って下さい! 暴れる魔獣から! くっころですよ、くっころですよね? ですよね?)
(これまで、
(これまで以上にですよ……甲田さん……というか、性的な意味で、ですよ……)
(大丈夫だ、うちの「守護者」は優秀だからな。もれなく守ってもらえるぞ)
(そ、そうでは~なくー)
実際、武闘会の予選敗退以来、思うことがあったのか、甲田、的場の両名は一心不乱に訓練を続けている。しかも、予選で負けた敗因に固執する事無く、自分の特徴、ジョブのポイントを伸ばす方向で特訓を重ねていた。
これまで自力で、誰に教えを請う訳でもなく、独学、自己流で来たのだ。まあ、自己流で一流の探索者になったのだから、それだけでも、恐ろしいポテンシャルと言える。
なので、俺がほ~んのちょっとスキルやギフト、熟練度の仕組みについて解説したら、みるみるうちに吸収していっているし、うちの人達の稽古で武道の基礎を習得しつつある。
正直、二人とも凄まじい才能だと思う。これまでの人生、親がいなかったり、早く亡くなってしまったり、運が無かったり……あまり良いモノではなかったのかもしれない。特に甲田さんは出会った時のひねくれっぷりを思い出すと、結構厭世的というか。
的場さんという親友、そして自分をかまってくる妹のヨスヤも、かもしれない。その二人がいなかったら、もっと道を踏み外していたか……乱暴に生きて、ずっと前に死んでいたか……だったんじゃないだろうか?
そんな運の無い二人だからこそ……探索者としての才能は与えられたのかもしれない。神は平等では無い。それこそ、有用なギフト所持者に、更なるギフトを与える事もあるし、真面目で健気で努力家なのに、どんなに頑張ってもギフトが手に入らない場合もある。
だが。正直、対価無しに無制限で与えるのは……神側に何か落ち度があった場合だけだ。優れた能力を持つ者は……大抵何かを失っている。失っていないと思える場合は、当人がそれが何か気付いていないだけだと思う。
(女の子的には王子様に守ってもらいたい訳でー)
(それにしても此方から探し回らなくても良いのは楽で良いな)
(はい、
(ま、撒き餌?)
(囮?)
(だから連れて来たんですね! だからここまで育てたんですね?)
(うん、そう)
(酷い! でもそんな靖人様も好き! ステキ! 抱いて!)
自分で言っておいて、物凄く顔を赤くしている。
(すぐに抱いてなんて言う恥じらいの無い女子は好きじゃない)
(ガーン、あ、そう言われてみれば前にも同じ様なことを言われた気がする!)
(本庄さんは……パーティ会話、さっぱり上達しませんね……)
(むしろ、お漏らし度、明け透け度が高まってる)
俺もそう思う。でも立ち直りがとんでもなく速くなっている気もする。
(気を取り直して、まずはこの二階層ですね。私……というか、女子がいるので難易度アップ確定です。レベルアップに励みましょう。三十三階層は……ここをクリアしてから考えるとして)
というか、お漏らしは、元々使えた「回復」の術がイイ感じにレベルアップしている。それこそ、擦り傷を治すのに十分以上かかっていたのが、いまやちょっとした怪我なら数分で大丈夫になっている。本人的にはもうちょい大きな傷でもいけそうだ……けど。
(さすがに怪我をしてくれとは言えませんね~)
だそうだ。
三十三階層はボス階層だ。それも、池袋の三十三階層と言えば、中級パーティの壁として立ち塞がる大きな試練として有名だ。
とはいえ、まずはお漏らしの言うとおりなので、目の前の障害から消して行くことにしよう。
三十一階層に足を踏み入れた。途端に。
(ナイトオーク×五、接近中です。いきなり見つかってます)
聞きしにまさるメス探知能力。魔物の本能恐るべし。
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