0140:布教
あ。予選は、武器は全て刃落ち。矢はペイント矢。トドメの一撃は寸止め、ギブアップ制で意識を失う、身動き出来なくなると負けとなる。
近距離戦はともかく、遠距離戦は致命の一撃の度合いの見極めが難しいらしく、多くの審判が見守る中での試合となたっている様だ。
まあ、現時点では魔術士は、数が少なく、実力者とそうで無い者がハッキリ分かりやすい。発動直後に勝負アリでキャンセルをかけることでどうにか進行しているらしい。とりあえず事故は起きていないので大丈夫……じゃないだろうか? 結構大雑把だけど。
審判の多くは討伐隊員だ。大忙しである。自分的には、色々と言われた上にやらされもしたので、いい気味だけど。
何だかんだ言って。参加者数からも、予選には2カ月以上かかるようだ。迷宮局も、ここまで多くの探索者が参加するとは思っていなかったらしく、本戦の日取りの発表の際に「本当は本戦開催を年末を予定していた。計算違いをお詫びします」という、謝罪会見まで行われた。
優勝賞品が、一億円と、級上げという比較的地味なものだったのも計算違いの要因だ。トップランクの探索者にとって、一億円は、はした金でしかない。
一般人ならともかく、常日頃、命懸けで戦っている探索者に、この手の娯楽、見世物的な催しは受け容れがたいのではないか? という意見も根強かったらしい。
が。蓋を開けてみれば、大盛況どころか、トップランクの探索者ほど参加率は高くなっている。
そう。多くの探索者が、闇ランクではなく、公式に認定された実力によるランキングを求めていたのである。というか、探索者なんてみんな「俺が一番強え」と心の何処かで思っているのだ。
ある程度、命の保証がなされたガチの全力勝負。こんな機会はそう有り得ない。
簡単に言えば。探索者の多くが程度は違えど
さらに今回は、普通に考えればこういう催し物に参加しない、非バトル系、研究系の探索者も多く参加していた。
未だ一般には正体があやふやでキチンとした立場を得られてない数少ない魔術士系の探索者だ。特に遠距離戦はそのためのルールということで、盛り上がっている。
魔術とはこういう事だ! という自分の研究、訓練、練習の成果を大々的にぶちかましたいのだろう。うん、気持ちは判る。
さらに、一部の高ランクの「魔術士」にはなんとなく、本戦は全世界に生放送、生配信されるという事が伝わっている。
でなければ、「張角」「記録者」といった既に成功し、十分な対価を得て、伝説と成りつつある者たちが表に出てくる事は無かったはずだ。
彼らは魔術士として、魔術の凄さ、素晴らしさを少しでも若い次世代に伝えたい、普及させたいと常々思っていたのだろう。
それこそ、「張角」一門は「初心者探索者のための魔術講座」を実費のみで開催している。
自分、あるいは自分の仲間以外はライバルでしかない業界で、ノウハウの流出は敵に塩を送る以上のボランティアだ。この講座で魔術に目覚めた探索者は非常に多いという。
二つ名がね、「張角」なんていう、三国志演義、黄巾党の首領の名を付けられてしまったものだから、ちょっと怪しい気配を感じた人もいたみたいだけど。
「記録者」、うちの大学の逢坂教授は、迷宮学だけでなく、魔術も学術的な検証を行い権威付けに尽力されている。彼女の講座、ゼミで学び、研究結果を小論文として提出し合い、検証。フィールドワークとして迷宮に潜っている研究者も非常に多い。
最澄、空海が命を賭して仏教の教えを説いたように、探索者は探索に賭けている。特に現在の最先端の魔術士は魔術の布教に命を賭けているふしがある。
仏の何たるかを理解しようと修行するのと、魔力を解析、分解、理解してさらに行使するのは、志は変わらないのかもしれない。
だが、布教として考えるとやり甲斐があり過ぎて、中途半端になりそうで怖くなっているかもしれない。それが一瞬で埋まる可能性があるのだ。派手な呪文を行使している所を映像に収めて、TVやネットで配信されれば。バカにでも分かる。PV数、世界記録更新の可能性があることが。
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