0136:やる必要があるからやる

「完全に疑似では意味が無いのだ。迷宮での武の真の恐ろしさと魔術の強大さを世の中に広めると共に、探索者たちに自らの力に恐れを抱かさねばならん」


(それはそうでしょうけど……ただ、母さんの選んだやり方は、大賢者様が本当に付きっきりで、しかもいくら貴方でも限界ギリギリまで能力を使い切ってのことなのでは? 会場の大きさから考えて……正直無茶だ)


 そう。それはもう……いくら大賢者とはいえ、人間の存在を超えている。ふう……まあ、超えてたか。昔から。


(……母さんが本気でそれに集中してしまうということですね……。でも自分に出来る事なんてたかがしれてるというか)


「にしし。謙遜も程があるよ、ヤスチン。あのさ、総長との事とか聞いてるよ~? ああいうのやってってことさ。魔術でも~」


(魔術? 辛くないですか? 防御系の魔術って大事だけど大抵地味だし……)


「そうなんだけどね。どうにかできないかって相談だよ~ん」


(武器も魔術も同じ場所、同じルールで闘うんですよね? せめて遠距離と近距離で分けないと勝負事にならないんじゃないでしょうか? 魅せる為にはある程度のクラス分けは無いと……準備時間次第ですけど、一瞬で片が付きますよ? 特に魔術は準備段階がもの凄く地味だから)


「ほらほらほら! ほら! 姫様! 言ったジャーん! ほら! 言った通りじゃん! 武器バトルと魔術バトルとか、近接と遠距離とか分けないと、ショーにはならないよ? って」


「むう」

 

 そこから……ルール改定というか、ルールの算定が非常に面倒なことになった。真白さんが言うには、現在活躍している通常の探索者の「魔術士」は、非常に限定的で万能型とは言えないレベルでしかないとのこと。まあ、そうだよね。黎明期はそういうことになるよね。


 そもそも、現状は近接戦闘系の……戦士とか騎士とか、その手の腕力系の職業ですら、様々な仕様が明らかになっていないのだ。


 それこそ、的場さんの使用しているギフト等は、的場さんのみの隠し事だ。


 さらに大成するまでに時間の掛かる魔術系の職業の場合、ギフトどころか、術の行使における手順の詳細に至るまで、魔術士個人の技として秘匿される。まあ、自分の強さの根本になるのだから、明かさないよねぇ。

 現状ではやっと、流派というか、魔術士の技を体系化する魔術士が登場し始めた……程度でしかない。それこそ、万能型の魔術士なんて……夢の又夢だ。


 ココで言う、万能型っていうのは、魔術士なのに、ある程度近接戦闘もいける者の事を指す。魔術の世界レベルというか、魔術全体のレベルがかなり高まっている場合の話だ。母さんはこれを目指していたというか、万能型の最高峰ってヤツまで仕上がっていたハズだ。


 そもそも、生粋の魔術士は近接戦闘に非常に弱い。ジョブとしての致命的な弱点とも言える。


 さらに本格的な魔術を行使するには、金属製の鎧などの装備は邪魔になることが多い。つまりは、物理防御力が非常に低くなる。さらに、呪文詠唱という物理的なマイナス点もあるので、懐に入られて、剣を振り回されたらどうにもならない場合が多いのだ。


 で、今、最高峰の剣士と、魔術士が「お互いの姿が見えるくらいの近距離」で正面から闘った場合。試合開始から詠唱スタート……ということになれば確実に、剣士が圧勝する。というか、魔術士として参加した者は、尽く、術を放つ前に倒されてしまうだろう。


(3vs3とかのチーム戦はムリですね。母さんのやろうとしているそのシステムじゃ。ということは、ソロでの試合のみ。ってことは、やはり、近接戦闘部門と、遠距離戦棟部門で分けないと、魔術を映像で見せる前に、勝負は付いちゃいますから)


「だよね~パーティバトルはムリだね。姫様の負担がおかしいレベルになる。というか、多分、今の仕様でもギリギリでしょ~?」


(ええ、そうでしょうね……というか、母さん、大丈夫なんですか? 本当に。ケーブルを用意して、神にあらがうだけでも異常な負担になると思うんですが)


「大丈夫」


「姫様~こういう口をして大丈夫って言う時は頑固だからなぁ~」


 かなりムリをして大丈夫ということなんだろう。




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