0135:不器用ですから
(それにしても……迷宮内で撮影可能なカメラの開発ですか。やりましたね、母さん)
「う、うん?」
(?)
「にしし。でも半分は力業なんだよねぇ。愛する息子に言われちゃったから、頑張っちゃったんだよね~姫さ、ま、重い、重い、おも、お、も、「重圧」、リミットな、し、はやば、ヤバイ」
真白さんが、床におかしい格好でプレスされている。どうやっているのか判らないが……重力系の魔術だ。というか、重力って属性はどこに所属するんだろう……。知らないんだが。
(力業ですか?)
「カメラに変わる魔道具は出来た。が、記録が出来ん。迷宮内では録画不可だな。さらに電波等で発信も出来ん。なのでケーブルで大門を越えて地上に繋げる。録画や放送、発信は地上から。既存の放送設備を使う」
(それは……可能なんですか……?)
「に、にし、にしし。可能にしたんだにい~。強引に。神力抵抗を魔術で抗うなんていう、現人神レベルの荒技を施したケーブルを! 地上と迷宮内で繋ぐ。はい、何が起こるでしょう?」
(以前の実験結果だと、海底ケーブルクラスの強度のある線を使用しても、数分で断線した気が)
「そう、何も施していないケーブルでも、数分保つ。では? さっき言った、姫様謹製の神力抵抗の魔術を施したケーブルなら?」
(数十分は保つ?)
「大正解。47分。これがリミットね~? 後はわかったでしょ~?」
(ケーブルを複数用意して時間ギリギリに、次のケーブルを接続。断線したら交換? あ、いや、安全マージンを確保して……30分くらいで次のケーブルに交換、ですか? ちょっとムダが出ますけど)
「正解、正解、大正解! さっすが〜ヤスチン」
なんという物量作戦。そして人海戦術。どれだけ強引なのか……。凄いな……。そこまでしてやる……価値があるんだろうな。うん。
(で、自分は参加しないとなんですか?)
「ああ。いや、そうだな。参加というよりは……いや……」
(?)
「もー素直じゃないなぁ。お小遣いあげるから手伝ってでしょ?」
(? 何か意図が?)
「姫様に任せておくと時間が掛かりそうだから、私がまとめるよ?」
こくん……って頷いてる場合じゃないよ、母さん。俺と違って普通にしゃべれるでしょうに。
(今回の天下一武闘会、会場は日比谷迷宮の一階層。開催期間中、姫様が身動き取れなくなるんだよねぇ。なので、開催中の抑えをお願いしたいかなぁ~と)
(抑え、というと?)
(イレギュラー。今回の大会は迷宮のシステムに逆らうモノになる。なので、こちらの予想外の事象が発生する可能性がある。万が一ではあるが、それに備えていて欲しい。なので本戦は参加しなくてもいい。頼めるのは愛しい我が子しかいない。地球上で唯一)
最後! ビックリ! いや、慣れん。って母さんも顔を赤くして固まっている。
「あーもう、姫様も大概パーティ会話下手くそだな!」
「下手じゃない。靖人だけ、なる」
「気を許してるのは判るけどさ。この後、数時間、恥ずかしくて仕事にならないじゃん。何とかしれ」
「むり。出来るならしてる」
まあ、でしょうね。
(おおざっぱには解りました。母さん……身動きが取れなくなる、かかりっぱになるってことは、何処までやるつもりですか?)
なんとなく無茶なことをしようとしている? 気がする。
「おう。さすがだね。さすが宗主様。話が早い。私が負けただけの事はあるね。そういうことなのよ。ぶっちゃけ、護衛側としてはそこまで……と思ったし、何度も言ったんだけどさ」
うん。
「こないだの、「新生」の最後の試練の魔術システムを解析した。参加者個人のアストラルによる疑似生命体の創出と、安全確保。実体への上書きをリアルタイムで行う。さらにそれによる、フィードバックの保証。さらに、会場のアストラル固定化」
(……母さん……)
「ね!」
(それは……やり過ぎでは……参加者の使用する装備、武器とかを疑似アストラルで作る……とか)
それだって……正直やり過ぎだと思う。
「ヤスチンが頑張ったじゃない? だからさ……姫様、自分も頑張らないとって必死なのよ。何とか言ってやってよ……本当に」
(母さん……)
むう。とさらに顔を赤くさせる母さん。可愛いですけど。ちびっ子で。
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