0134:呼び出し

「ヤスチンのこと、よろしくね。一人では生きにくい性格とか、口下手とかイロイロと弱点バリバリだから」


 睨む。真白さんとは単純に、パーティを組んでいないので、言い返せない。というか、言い返すとたどたどしくなって自分自身が悲しくなるので睨むだけで終わらせる。


ギシッ


 ムダに……ああ、真白さんが一瞬、力を入れた、スイッチを入れる。


 それだけで、空気がいがんだ。


 甲田さんはさりげなく戦闘準備をしてるし、的場さんも出来る限り防御体勢で構えた。が。このレベルの武力に対応するには……致命的に遅い。


「筋は悪くないけど……ね。というか、これは……」


 ああ、真白さんの視線がお漏らしを見ている。うん、キョトンだね。彼女は戦闘に関しては本当にからっきしだ。多分、魔術士として成長できるとは思うが、反射神経とか、運動神経とか、肉体的な行動に関しては何一つ期待出来ないと思う。


 体育の成績だけが小学生の頃からイマイチだったと言っていたし。


 なので、真白さんの圧倒的な力を目の当たりにしても……何一つ反応出来ないし、していない。少しでも野生の感覚があればビクッとするもんなんだけどね。これが、威圧になると多分、イロイロと漏れちゃうことだろう。今は厨房にいる晃司さんも危うい。


「ああ、君が~詩織ちゃんね~本庄の。うんうん。ヤスチン、奥手だから。特に女子に。積極的にね」


 意味も分からない感じで、嬉しそうに頷くお漏らし。


 ああ、基本、お漏らしは、本庄さんとか、詩織ちゃんとか呼ばれている。甲田さん、的場さんが「本庄さん」、晃司さんとばあちゃんが「詩織ちゃん」だ。で。当然俺も「本庄さん」と呼ぼうと思ったのだが。


「あの……御主人様に、お漏らしと言われるのが……その……あの……癖になってしまいまして……」


 本人談だ。というか、俺、御主人様はやだなって言ったよね? みんな、俺の言うこと聞かない。


「ゾクゾクっとする……のです……それに御主人様は基本念話ですし、その、それなら、お漏らしがいいかなぁと」


 あのさ、言っておくけど、それを身内とはいえ、俺たちに言っちゃうのは、おかしいよ? 真面目に。


 ということで、本人希望のため、「お漏らし」呼び保留ということになっている。


ガタ


 良いと言われたのに、二人が立ち上がって頭を下げる。師範代総代の効果もあるけれど、この対応は、さっきの強者の気迫に反応したのだろう。コイツには逆らってはいけない……という気配がビンビンしてるもんね。いくら素人のお漏らしでも理解出来て欲しかったなぁ。


「でと。本題。ヤスチン、姫様がお呼び~ん」


「わざわざ来なくても、メールで連絡いただければこちらから向かったのに、だそうです」


「お。迷宮外でも、なんだ。さすがだねぇ~ヤスチン。まあ、うん、自分の住んでいた場所がどうなったのか、見たかったんだよね~。だって、いない間に、母屋に部屋が移動してるんだも~ん」


 くそっ。一瞬でバレた。ちゃんと耳打ちしてたのに。


 ああ、そうか。真白さんの部屋は……一年以上空けることも多々あったが……この長屋にあった。総代とはいえ、師範代だからね。山県さんとかと同列だ。今回、ここをこうするにあたって、母屋に部屋を用意して荷物は運び込んでおいたのだ。真白さんの荷物はボストンバッグ二つ。荷物なさ過ぎだ。


「んで、とりあえず、姫様が即来いってさ~。行こ~」

 

 まあ、それが本題だものな。というか、それはそれは大切な案件なのでしょう。母屋に戻ると、母さんが帰宅してた。珍しいがそういうことだ。


「聞いたな? 仕事しろ」


 うーん、省きすぎ。それでも判る自分がイヤだ。天下一武闘会の事は「聞いたな?」「仕事しろ?」。ですか?


(目立つのイヤなんですけど)


 既に母さんのパーティに組み込まれている。


「匿名でも参加可能だ。希望者には魔道具のフェイスマスクが貸し出される」


「にしし。姫様も魔術が思ったより普及していないのは気にしてたのよ〜んって姫様、言葉足りないでしょ。手伝って、でしょ~? で。出場じゃなくて、優勝決定後のエキシビションに参加してもらうんでもいいかもって言ってたじゃない~?」


「まあ、その辺の細かいコトはこれから、でいい。やってもらう仕事も別に参加者としてだけじゃない」


 ……前から準備してたっていうのはこれか。って参加者じゃなく? どういうことだろうか? 事は。


(もしかして、撮影可能になりました?)


「くくく、さすが、ヤスチン、だーいせーかーい」


(そんな回りくどいことをしなくても、魔術大系、母さんの知識の一部を書籍化すればとも思うんですが……はいはい、判ってます、正解を与えるだけになりますからね)


 そして、次も正解を待つ様になり、それが遅れれば、正解を待つ側を非難することになる。与えるならば与え続けなければならない。そして、民は愚かで有り続けなければならない。


 人類レベルで革新的な情報は、即真実となり、魂を捉える。


 まあ、今の地球人類はそう簡単には愚かで有り続けられない以上、穏やかで自力による改革が必要、という母=大賢者の自論、自説は間違っていないのだろう。





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