0132:縁故

「よろしく御願いします」


我が主君マイロード、俺と、泰代の叔父、母親の弟の……的場晃司さんです」


「二人の両親が大氾濫で亡くなった時に引き取ってくれたのが晃司さんです」


 甲田さんがほぼ、頷くだけでいいように会話を足してくれる。ありがたい。


「晃司さん、略歴を説明してもよろしいですか?」


「ああ、頼む。進次郎の方が客観的に伝えられるだろう。事実を言っていい」


「はい。先ほど言ったとおり。大氾濫で晃司さんの両親……宗一の祖父母と宗一の御両親は亡くなりました。宗一たち二人は他に身寄りが無かったため、別々に児童養護施設に預けられる所でしたが、晃司さんが高校を辞めて食堂を継ぎ、二人を引き取りました」


 同時期に一族で亡くなるっていうのはよくあることだ。どうしても同じ場所に居ることが多いからね。血縁者は。


「食堂はギリギリの経営でしたが……ここ数年で何とか軌道に乗り始めた所で、店に車が突っ込んで店がおじゃん。怪我をした晃司さんのリハビリが終わって、店の開店資金をどうしようか? 自分と宗一の貯金の残りを使ってもらうか……と揉めているところでこないだの宗一の入院です。もう、四の五の言っていられないというコトで使おうとしていた私の資産も、晃司さんに断られ続けていまして。正直現状途方に暮れていた所です」


 年齢は三十前後。スカジャンにデニムときて、角刈り? 短髪。ガテン系の四角い顔とでも言えば良いのだろうか? 体格は大きくもなく小さくもなく。身長は175センチ弱だろうか。


「まずは礼を言わせてほしい。宗一を救ってくれてありがとう。あれ以上病院にいたら、請求される治療費で生きていても地獄状態だった。ヘタすれば泰代が危ない橋を渡っていたかもしれん。詳細はよく知らんが、宗一を治療してくれたのは、お坊っちゃんなんだろう? ああ、マイロードだっけな?」


(……もう……)


「呼び方は何でも良いそうです」


「んじゃ、坊ちゃん……か、靖人様か。坊ちゃんはそろそろ年頃的に嫌だろうか」


 普通でいいんですけどね。でもお漏らしもそんなんだったしな。呼び方なんてどうでもいいか。


「晃司さんが悪いのか、それとも俺の運のせいなのか、実はあの店は厄介事が絶えなかった。なので、素直に店を再建するかどうかで揉めてたんだ」


「正直立地はいいから、駐車場の方が実入りも良いってのも……な」

 

 皮肉。という顔。似合うな。この人、的場さん、ヨスヤという美形の家系だけあって、よく見るとカッコイイ系だ。髪型が思い切り……収監された犯罪者系だから気付かれにくいが、隠れてモテるタイプというか。


「晃司さんには宗一たちだけでなく、私や、私の施設仲間も返せない恩があります。経済的に一番厳しく、苦しい時期にあの店で賄われた定食、丼。その一食が、頼る者の無い我々を、どれだけ力付けてくれたことか」


「当たり前の事をしただけだ。腹を空かせた子供に飯を食わせたのを、いちいち感謝されちゃキリが無い。そもそも、その当時に振る舞ってたのは親父だ。俺が特別なわけじゃねぇよ、そんなんで威張ってちゃ親父に怒られる」


 いやいや特別だろう? そんなの。


「先立つものが無い以上、店は諦める。こだわる事は無いからな」


「と、まあ、こんな感じです。そこにいきなり我が主君マイロードが料理人がとおっしゃったので、もしや、ご存知で……と疑うほどでした。宗一が言わなかったら、私が推薦していたかと」


(んじゃ、採用で。住むとこに拘りが無いのなら、住み込みで)


「え?」


「よろしいのですか?」


(うちの社員、二人のお墨付きだからね)


 あ。ちゃんと俺は、甲田さんに耳打ちして、喋って伝えているよってアピールは忘れてない。重要な情報を変に教えちゃうと、何かに巻き込む可能性があるからね。


「はっ。晃司さん、いつから働けますか?」


「何時でも。怪我はリハビリも済んでる。ちょっと前に風邪で寝込んだりもしたが、今は身体の調子は万全だからな。何よりも……迷宮産の食材を扱える……んだよな?」


(ん? まあ、うん、売らずに持ち出せる……食材とかはあると思うけど……)


(あ。す、すいません、晃司さんの悪い癖が)


「あ、それはちょっと……」


「こーちゃん、実験はしない方向で……」


(実験?)


(好きなんです……晃司さん……未知の食材を組み合わせるとか、未知の香辛料を……とか)


(あ~食べるのも実験になるのか)


(はい……特にデザートの実験が好きで……)


 なんかヤバい物を食べさせられたイメージが伝わってきた。


「特にデザートはダメだ。こーちゃん」


 的場さんの口調が超絶真剣。


「なんでだよ! ま、まあ確かになんかデザートは思ったように仕上がらない事が多いが」


「多いじゃなくて、全部じゃんか!」


 うん、多分、デザートは鬼門なんだな。


「晃司さん、その辺は、まあのちのち詰めるということで。では、今日からでも御願いします。とのことです。部屋に案内しますよ」


 おもむろに頷く。ああ。なんだか甲田さんの方が嬉しそうだ。


(あ。待って。「回復」)


 念のため晃司さんを治療しておく。本人は「なんとなくポカポカするな」程度の感触のハズだ。


「えー? えーえーえーえー?」


 あ。丁度、食堂に降りてきたお漏らしが、迷宮以外での本格的な魔術の行使に初めて遭遇したようだ。念話使えてる以上察せよ……。

 

 説明、面倒くさいなー。


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